レスター伯の限界

気付いたらVtuberになってた

「ヒーロー」になるということ ―岡田斗司夫『遺言』島本和彦『アオイホノオ』のすすめ―

 バイトの合間に筑摩書房PR誌『ちくま』12月号を読んでいたら、

 島本和彦による岡田斗司夫『遺言』の書評が掲載されていて、

 これがまたすごく面白かった

 この二人といえばアオイホノオ』の最新刊(5巻)において、

 あのDAICON3」の前日談が掲載されるなど、

 漫画という形でも島本先生が岡田先生を描いてました


 というわけで、今日は『遺言』と『アオイホノオ』という二人の著作を紹介しつつ、

 「ヒーローになること」について考えてみたいと思います。

1.岡田斗司夫『遺言』

遺言

遺言

 『遺言』において岡田斗司夫は自らの経歴、つまり

 ガイナックスや「オタク学」の確立、ダイエットを経て現在に至るまでの、

 彼のたどってきた「オタクの歴史」を描きながら、

 作家論、クリエイター論、ビジネス論を展開しています。

 島本先生の言葉を借りるなら、「まさに人生やりたいことのし放題」であり、

 岡田斗司夫という「ヒーロー」が「いかに戦ってきたのかの総集編であり大全」だという。*1

 この表現からだけでも、岡田斗司夫のパイオニアや、

 自伝すら自分で書いちゃうバイタリティの凄さを感じる事が出来るわけだが、

 島本先生はこうも書いてある。

 1980年年代以降、TVや映画でヒーローを作る担当が「大人」から「若者」に変わっていった時代。若者は「生死に関わる国家レベルの苦労をリアルに体験してはいない」世代。
 大人たちは「ヒーロー」の出現を願った。ヒーローは大人にとって願いなのだしかし若者は自分がヒーローになりたかった。私もその世代だ(『ちくま』12月号、6-7頁)

 まさしく、岡田斗司夫はこうした若者の「ヒーロー」の象徴であり、

 『遺言』を書いた現在でも新たなイベントやブームを巻き起こそうとする、*2

 「ヒーロー」であり続けようとする点が素晴らしいのだと。

2.島本和彦アオイホノオ

 その一方で引用の最後にもあるように、

 島本先生もまた「ヒーロー」になることを願い続けてきた若者なのである。

 そうした「ヒーロー」への想いは80年代初頭の大阪芸大時代を舞台にした、

 自伝的作品『アオイホノオにて描かれている。

アオイホノオ 1 (ヤングサンデーコミックス)

アオイホノオ 1 (ヤングサンデーコミックス)


 庵野秀明赤井孝美など実在の人物に混じって、*3

 島本先生の分身足る焔燃の大学生活を描いた漫画であるが、

 そこでも焔は徹底的に「ヒーロー」になりたい主人公として描かれている。

 例えば5巻では、教習所の試験に受からない理由として、

 「自分の反応が速すぎて教官が認識できない」との理屈をブチ立てる。

 どう考えてもありえない屁理屈なのだが、

 「ヒーロー」になりたい若者にとって自分の能力を疑う訳にはいかない

 その一方で、ウォークマンが買えないという悩みにも本気でブチ当たる


 
 なんとも庶民的というか、ただの貧乏学生なのであるが、

 岡田斗司夫島本和彦が懸命に生きていた80年代初頭においては

 「ヒーロー」になることとは、自分の限界をまざまざと見せつけられながらも

 それでも前に進み続ける事だったのだろう。

 そうした「ヒーロー」像を島本先生はアオイホノオ」で何も隠すことなく描いており

 だからこそ、その姿を見て笑う事も出来るが、

 同時にその真剣さが僕らの心を打つのではないだろうか

アオイホノオ 5 (少年サンデーコミックススペシャル)

アオイホノオ 5 (少年サンデーコミックススペシャル)

3.ヒーローになるということ

 この二人による「ヒーロー」を描いた世界は非常に身近にある

 もっといえば、これらを読むと僕らも「ヒーロー」になりたくなるだろう。

 しかし、重要なことは『遺言』を書いた岡田斗司夫も、

 『アオイホノオ』を描いている島本和彦も、

 未だにヒーローになろうと前に進み続けているのである。

 下の世代からみたら彼らはまぎれもなく「ヒーロー」であるが、

 彼らもまた「ヒーロー」にあこがれる若者だったのであり、

 さらに言えば、今も「ヒーロー」として研鑽を止めていないのである。

 はたして、僕も誰かの「ヒーロー」になることが出来るだろうか

 二人の本を読んで、心の片隅にふと浮かんだ想いである。

オタク学入門 (新潮文庫 (お-71-1))

オタク学入門 (新潮文庫 (お-71-1))

燃えよペン (サンデーGXコミックス)

燃えよペン (サンデーGXコミックス)

*1:『ちくま』12月号、6頁

*2:島本先生は「遺言」ブームも狙っているのではないかと書いている

*3:言うまでもなく、あのガイナックスの主力メンバーである