レスター伯の限界

気付いたらVtuberになってた

ヒロインと本気で恋しようじゃないか ―『アマガミSS』全ヒロインレビューのすすめ 前編―

先日LDさん・ルイさんと一緒にアマガミSSに関するラジオを行いました。

参考:『アマガミSS@漫研ラジオ』―今何処―

ラジオにおいてはアマガミSSに関して三人でしゃべり倒したのですが、

事故で後半部分の録音が消えてしまいました(´;ω;`)

後半ではルイさんを中心とした全体の構成と上崎さんの位置づけの話と、

僕を中心とした各ヒロインに関する細かいレビューが行われたのですが、

そのうちの僕が主に関わった部分をサルベージュする意味で、

アマガミSS 全ヒロインレビュー』を行いたいと思います。

分量の関係で分割するので、とりあえず前半三人分から。


参考:ルイさん 『アマガミSS』上崎裡沙の、偉大すぎるシンジツ―ひまわりのむく頃に―
    LDさん 【ハーレムメーカー】『アマガミSS』×『ヨスガノソラ』のヒロイン並列構造の解法―今何処―

承前:レビューの形式

LDさん、ルイさんのレビューにおいては全体の構造を中心にかたられていますが

僕は敢えて、個々のヒロインのエピソードを別々に切り分けた上で、

それぞれを独立した形でレビューしていくという形式を取りたいと思います。

アマガミSS「ヒロインと全力で恋をするアニメ」だと思ってますし、

その意味では一旦ギャルゲやラブコメの歴史的な文脈とは一定の距離を取った上で

一人一人について語ることで浮上するものを見たいという意図をこめています。

平池監督も「6本のオムニバス映画を取るつもりで作った」と言ってますし、

ところどころ比較しながら、6本のレビューが並んでいると考えてもらえたら幸いです。

1.超高校生級の恋愛―森島はるか編―

 ラブリー先輩の場合、「膝裏キス→ニャンニャン攻撃→塩ラーメンプレー」を完全再現した3話のイメージが強いこともあり、アマガミSSにおいても最も変態度が強調されていたという印象は、まあ否定できないでしょう。ただ、両雄激突動画とアニメを見比べてもらえば分かるように、アニメにおいては橘さんの変態度が抑え目だったことも同時に否定できないわけで。


 そう考えると、ラブリー編は変態度というフィルターをはずしてみると、主人公とヒロインがお互いに最も純粋に恋をしていたシナリオだったと言えないでしょうか。*1

 ブックレットやコメンタリーにおける平池監督の言葉にもあるように、はるか編は導入として橘さんから恋をしてぶつかっていく話であり、だからこそヒロインとしてのはるかの側の恋心をしっかり描かなければならないということになり、そこのバランスをとることで非常に濃い恋愛物語になっているのだと思います。


 もちろん、「なんで覗きにこないのよ→覗きにいかないとだめだったのか!?」のコンボのように常人の神経では理解が難しい部分もあるわけですが、お互いが全身全霊をかけて自分の気持ちをぶつけあうという意味では、見てる方が恥ずかしくなるような青春時代にしかできない恋愛をしているのです。

 平池監督が「現役の高校生にも(膝裏キス)ぜひ実践してみてほしいですね」とか「高校生がどういう感想を抱くのか聞いてみたい」的なことを言っていたのは、もちろん冗談の側面もあるのでしょうが、しっかりと二人の恋愛を描ききったという自信があるからこその発言だと思います。


 また、コメンタリーにおいて伊藤静「(3話を演じていて)心が折れました」と言いつつ、橘さんをかっこいいといい、はるか編が終わる時には「他の女のものになるのが悔しい!」と発言していたのも、はるかとして純一に真正面から恋をしていたことの証明に他ならない訳です。

 この点は前に書いたアマガミ記事でも強調したことですが、アマガミは突き抜けてはいるものの、真正面から逃げることなく青春時代の恋愛を描いた作品であり、その意味ではるか編はまさしくアマガミSSがその理念を受け継いでいることを証明していると言えるでしょう。


 構成や演出的な側面から見れば、ラブリーを導入に持ってきたことでアマガミSSの方向性を効果的に示せたというのも大きいといえます。実際に僕もはるか編の導入が素晴らしかったことでアマガミSSというアニメにすんなり入ることができましたし、最初の4話でインパクトと安心感を両方とも味わえたことで、継続視聴しようというモティベーションが高まったのは事実です。

 後、忘れてはならないのは、塚原先輩をしっかり描くことでアマガミに特有のお助けサブヒロインの存在を周知すると共に、放っておくとどこまでも暴走してしまう橘さんとラブリーを適度にコントロールして物語として破綻させない素晴らしい役割を担ってくれました。てか、最後の10年後のシーンまで含めて、「マジで塚原先輩不憫かわいいよ、不憫かわいい」状態で、こういう所がアマガミSSという作品に深みをもたらしてくれるのです。


 アニメ本編とは少しずれますが、アニメ版のヒロイン別ED曲CD*2、CDにはED曲の他にもカップリングの曲とヒロインの独白が入っており、それをあわせて鑑賞することでより一層ヒロインの心の動きを追うことができるようになっています。

 中でもラブリーのCDの場合には、ゲームやアニメでも示されている繊細な部分がより強くフューチャーされており、特にカップリング曲『花』が超名曲なため、アニメと合わせてみるともう正直たまらんことになるわけですよ!!

キミの瞳に恋してる(2CD)

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 キミキスのアニメ化という呪縛を背負った状態で始まったアマガミSSをスムーズに進展させる上でイントロに持ってこられるヒロインの選択は非常に重要だったわけですが、アニメとしてのコンセプトを明確に示した上でヒロインの魅力を描ききった森島はるか編は、構成・演出の両面から最高の仕事をしたといえるでしょう。

 ラブリー先輩の魅力の虜になったことで、アマガミSSというアニメが僕の中で特別な地位につくきっかけになったわけで、オムニバスの一作品に対する評価と全体の構成への影響力のトータルで見た時にMVPをあげたいと思うのです。橘さん同様にラブリーに恋したからこそ、僕はアマガミ「全力でヒロインと恋をする作品」だという認識が出来上がったのであり、アマガミSSにおける森島はるかは正しくギャルゲのヒロインだったのです。*3


2.アニメ本編にはおさまりきらない悪友の魅力―棚町薫編―

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 個人的にアニメ化において一番割りを食ったヒロインは薫だと思います。前がインパクト抜群で構成・演出的にばっちり決まったラブリーで、詳しくは口述しますが変化球を交えつつアニメ的に大成功を収めた紗江ちゃんが後にくるため、構成上も印象が薄くなりがちなの上に、バイト・母親の問題と純一が絡まない部分でも色々と重い問題を抱えているので、4話という縛りの中では魅力を書ききるのが一番難しいヒロインだったのではないでしょうか。

 
 悪友というポジションは出番が多くなる半面、動き出しにくいという側面を否定できないため、パッと切り替えて感情移入もしにくいということは否めません。それに加えて、橘さん視点が中心だったはるか編と比べて、薫編はヒロイン視点が中心で物語が進むため、ヘソキスこそあれ橘さんの変態っぷりで引っ張っていくわけにはいかないですし。

 こうした点は、薫と同様に部活や弟のエピソードがあって尺が不足しがちな七咲編と比べてみると面白いと思います*4。七咲の場合には後輩という位置づけのため薫と比べて感情の振れ幅が大きく見えるし、その点を意識した演出がなされていましたが、薫のエピソードはじっくり積み上げていった方が味わいが深くなるので、その点もアニメ化においては不利だったような気がします。実際に僕もアニメ放映時には、薫編にはいまいち乗り切れなかったですし…


 しかし、その分BDを購入してからコメンタリーを交えつつ繰り返しじっくり見返していくと、薫の良さがじわじわ分かってくる作りになっているのも事実です。特にコメンタリーにおける平池監督の演出意図と、薫役のサトリナの演技に関する話を聞いた後で見直していくと、細かい薫の心の動きをしっかりと読みとれるようになってきて、そうすると薫が愛おしくてたまらなくなってくるのです。

 個人的には告白のシーンにおける「私、あんたのことが好き」という台詞は、元々「好きなの」だったところをサトリナがアドリブで変更したという話を聞いたときに、「ああ、薫のこと良くわかってる、素晴らしい!」と拍手したくらいですよ。


 更にBDでは本放送時には一枚絵だった所に未放映のシーンが追加されていて、悪友から恋人になった二人の様子が描かれているので薫ファンには絶対に見てほしい


 

 このように薫編は非常にスルメなので、アニメ本編を見て「いまいちだなあ」と感じた人にこそじっくりと見直して欲しいシナリオです。

 そして、アニメ本編では描ききれなかったバイトの話とカップル後の心の動きが描かれた『ちょっとおまけ劇場』の薫編のシナリオや、そして何よりゲームで薫ルートを攻略することで全身で薫を感じることでその魅力にどっぷり浸かってしまえるヒロインだと思います。薫ファンって数は他のヒロインに比べると少ない印象がある一方で、梨穂子とならんですごい熱狂的なイメージなので、トータルで味わうことでその一端を感じてほしいですね。

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追記TwitterでLDさんに指摘されて気づいたのですが、薫編においてはお助けサブキャラの田中さんがあんまり活躍できてないってのも関係しているのかもしれませんね。薫の恋愛という面からみればちょっと弱かったかなと思います。前半の三人だとラブリーには塚原先輩、紗江ちゃんには美也がいて素晴らしいアシストしてましたからね…

 でも、田中さんは活躍しないからこそかわいいわけで、僕はそれで満足なんですけどねww


3.外見はふかふかでも芯は強い娘―中多紗江編―

 アニメ化における最大の勝ち組と言える紗江ちゃん。下巻のコメンタリーにおいて「紗江ちゃんはアニメを見て、ゲームをやり直しましたって声が大かった」っと平池監督も発言していたように、ゲームではどちらかと言えば不遇だったのを最も大きくひっくり返したヒロインであると言えるでしょう。


 その逆転の要因を考えると、まず目につくのが演出の妙。ラブリーが橘さん視点が強く、薫が薫視点中心だったのに対して、紗江ちゃん編では紗江ちゃんが口数が少ないキャラというのもあって、モノローグを極力少なくし、第三の視点としてのナレーションに進行を任せることで、紗江ちゃんのふわふわとしたかわいい雰囲気を損なうことなく、しかし物語もしっかり進めさせるという策がとられていました。

 この時点ですでに新鮮さがあっていいのですが、肝心のナレーションに「中田」譲二を使うというウルトラCをぶちかますw 譲二さんの起用はギャグの側面も含めて気楽に見える様にする配慮もあるのでしょうが*5、コメンタリーでの平池監督との大人の掛け合いを聴いていると、アマガミSSというアニメは40を越えた大人の視点から見ても十分に面白く感じられる様に作られている(そういう風に演出・構成されている)ので、敢えて大人のナレーションを入れることで作品の懐の広さが感じられる効果もあった気がします。

 うん、コメンタリーに本当に譲二を読んじゃうバカさも含めて、アマガミSSのスタッフ愛してる!

 
 ナレーションを中心とした演出によって物語を進める上での安定性を確保したことで、紗江ちゃんと橘さんの恋愛にはかなりの自由度が確保されたため、教官プレーという設定もおかしいんだけど面白く消化できるようになります。

 その上で、紗江ちゃんの人見知りだけど一度スイッチが入ると芯が強くぶつかっていける性格もしっかり描かれていたのもポイントが高い。その結果としてギャグテイストとシリアステイストが混じり合いながら非常にドライブ感のあるシナリオに仕上がっていた気がします。

 個人的にはBDで見直していて、3話から4話にかけて二人の関係が進展していく事を示す細かい部分の演出へのこだわり(手のつなぎ方とか、紗江ちゃんのセリフ回しの変化とか)が感じられたのもよかったです。また、BD版ではデートしているところをクラスメイトに茶化されるシーンが追加されていたのですが、そういうところでも転校生として人みしりに悩んでいた紗江ちゃんの成長が感じとれて素敵だと思います。


 また、ギャグとシリアスが合わさったドライブ感という面では、お助けサブヒロインとしての美也の活躍を忘れるわけにはいきません。

 コメンタリーで阿澄さんも「橘家のDNAはどうなってるんでしょうねえ?」と言っていたように、美也の行動がフックになる事も多く*6ナレーションともども物語の進行を助けつつ(邪魔しつつ)、自らの魅力も見せつけるという縦横無尽の暴れっぷりを見せつけてくれました*7

 個人的にアマガミSSは美也のかわいさがさく裂したという点でも評価できると考えていますが、その意味では紗江ちゃん編が美也が最も輝いたシナリオでしょう。今からBD13巻についてくる美也編が楽しみでなりませんね!



 このように、演出面での成功が際立つ紗江ちゃん編ですが、BDで見て改めて思ったのですが、その演出が紗江ちゃんのかわいさを表現することに向かっているのが何より素晴らしいのだと思います。

 変態度で言えばはるか編に並ぶのが紗江ちゃん編だと思いますが、この両者のシナリオはどちらも表面上は紳士なエピソードであふれつつ、一方で最終的にはしっかりとヒロインの人間的な魅力と橘さんとの恋愛を描くことをしっかりやっているのです。

 自由奔放だけど実は繊細なラブリーと、人見知りだけど行動力を持っている紗江ちゃんは対照的だけど、コインの表裏のような存在であり、デフォルメはされているものの青春時代特有のアンビバレントさを内包した女子高生らしさにあふれたヒロインだと言えるのではないでしょうか。

 そうした両面性をしっかり描く事に成功しているという意味で、紗江ちゃん編はアマガミSS前半を締めくくるにふさわしいシナリオだったと思います。まじ、平池さんいい仕事しすぎ!*8

4.前編まとめ

 最後に全体の構成の意図と合わせて振り返ってみたいと思います。前編の3人は後編の3人と比べてサブヒロインとしてのキャラの蓄積が十分でないままにメインヒロイン編に突入するので、どうしてもエピソードにインパクトが必要になってきます。

 その意味では、(アマガミ的な意味での)ストレートなインパクトのあるラブリーを一番、変化球のインパクトな紗江ちゃんを三番に持ってきたのは大正解だったと言えるでしょう。一方で、二人と比較すると積み重ねが必要な薫はかわいそうな役回りになってしまった気がしますが、その分ドラマとしては最も重厚で味わい深い仕上がりになっていると思います。

TVアニメ「アマガミSS」オープニングテーマ i Love

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 また後編へのつなぎを考えると、それぞれに個性的な3人のシナリオを通じてアマガミSSが目指しているもの」をしっかり示すことに成功しているので、後半の3人のヒロインにおいてじっくりと積み上げるタイプのシナリオを展開することが可能な土台を築いたなあという印象があります。

 詳しくはレビュー後編で書きますが、前半と後半で少し違ったシナリオの組み方をしているなあと思います。ただそうした違いも前半の土台あってこそかなということはこの時点で指摘しておきたいですね。


続きヒロインと本気で恋をしようじゃないか―『アマガミSS』全ヒロインレビューのすすめ 後編―

    上崎さんと本気で恋しようじゃないか ―『アマガミSS』全ヒロインレビューのすすめ 特別編― 

    サブヒロインとしてのヒロインの在り方 ―『アマガミSS』全ヒロインレビューのすすめ 補論―

*1:ラブリーと橘さんの類似性についてはBD七咲編上巻のコメンタリーにおいてゆかなさんが素晴らしい考察をしているので聞いてみるといいよ

*2:ゲーム版のキャラソンとは別物なので注意が必要))も合わせて鑑賞するとより一層ラブリーが好きになること間違いなしです。アマガミSSのED曲はヒロインのキャラクター性を比較的忠実になぞっている面があると思いますが((こういうところもどことなく90年代の香りがする一因になっていると思うのですが

*3:ラブリーの魅力といえばpixivでキシダ式さんのイラストの威力もでかかった

*4:詳しくは後の七咲編のレビューも参照してください

*5:実際にはスケジュールを確認したら空いてたからGOサインが出たらしい

*6:基本的に焚きつけて、スルーして、最後に突っ込みを入れるのでマッチポンプと言った方が正しいのかも知れませんがw

*7:紗江ちゃんとセットになった美也の暴れっぷりと言えば、前に紹介した『美也とおいかけっこしましょ』が素晴らしいですね

*8:紗江と橘さんは最も身長差があるカップルなのですが、そこを生かした平池監督のカメラワークが冴えまくってた印象もあります