レスター伯の限界

なんもかんも政治が悪い......

ループという運命を変えるのではなく、運命を変えるためにループ(リセット)を選択する ―『サクラダリセット』5巻で見えてきた物語の構造―

今年の始めに『サクラダリセット』のおすすめ記事を書いたのですが、

今月最新5巻『サクラダリセット One Hand Eden』が発売になりました

参考:21世紀の『タイムリープ』になれるか? ―『サクラダリセット』のすすめ― - レスター伯の躁鬱


この巻を読む事でこの物語の肝が何なのか改めて再認識したので、

備忘録もかねて、

「『サクラダリセット』におけるリセットの意味と運命」

もしくは、

「ループ/タイムトラベル物語の歴史に置ける『サクラダリセット』の新しさ」

というテーマで少し書いてみたいと思います。

今回はある程度、既読者を想定した議論なのでご注意を。


サクラダリセット』に置けるリセットと運命

予め纏めるならば次のポストで言った通りになります。


これは得てしてループ物の物語が、

ループという運命に巻き込まれた主人公達が、

そこから抜け出し未来を目指す事が主眼になるのに対して、

サクラダリセットにおいては、

未来視やシナリオによって決定されている運命にあらがうために、

リセットというループによって一度おこった「過去(未来でもある)」を変えようとします*1



両者は目の間に突きつけられた運命を変えるという点では共通していますが、

ループからの脱出を決断する前者に対して、

あえてループ(リセット)を選択する後者という違いを持っています。


このように書くと、『サクラダ』は古典的なタイムトラベルものに近い感じもしますが、

ケイはBTFのマーティのように運命に巻き込まれて過去を変えるのではなく

一度体験した「未来」とリセットによってもう一度体験する「過去」を計りにかけた上で、

自らループ(リセット)をすると選択するのです。


もっと言えば、ケイは自分が無力であるとは思っていない、

むしろリセットの力を唯一正しく使えるという運命を背負った上でループを選択する。

また、ケイがリセットを有効にする記憶保持の能力を得るのは、

自ら能力の街(咲良田)にとどまる決断をしたからであり、

こうした運命に対する決断がループに先立つ所が『サクラダリセット』の古くて新しい点だと思います。

ループが徹底して目的化しているという点では、

同じ2009年に出版された『紫色のクオリアともかぶる所ですね。

紫色のクオリア (電撃文庫)

紫色のクオリア (電撃文庫)



@Facet31さんの以下のポストは『サクラダリセット』にも当てはまるでしょう。

ケイは運命を引き受けた上でリセットを選択するのです。この順序はとても重要だと思います。

参考:ヤングアダルト世代にも読んで欲しいWeb小説 ―『魔法科高校の劣等生』のすすめ― - レスター伯の躁鬱


こうした構造を考えるならば『サクラダリセット』は、

ケイが運命を変える事が出来るかという従来のループ物の主題とともに、

リセットを選択する主人公ケイの動機、

つまり、過去という運命を変える事に対するケイの倫理性が物語の主題となる訳です。


5巻で見えてきたもの

以上の構造は3巻位まで読むとぼんやりと読み取る事が出来ますが、

5巻を読んでこの構造がより明確に、ただし複雑化してきたなあと思ってます。

ここからはネタバレもあるので既読者限定で。




5巻で描かれテーマのうち個人的に重要だと思っているのは、

1.未来視だけでなく、シナリオというリセットを超える「運命」を知る能力が出てきた事

2.能力によって運命を変えようとするケイと、能力そのものを消滅させる事で運命を変えようとする浦地の対比

3.菫を普通の女の子として生きさせようとするケイと、それに対する菫の思惑

4.ケイに対する春埼の感情の自覚と、それをいったんリセットしたケイ


1が物語の構造そのものに関わる要素であり、

2〜4がそうした構造に対するキャラクターの思惑です。

今のところわかっている感じだと、

浦地の立ち位置が世界のルールを書き換えようとする「従来のループ物」に近く

多分ですが、菫もそこに近い位置にいるような気がします。

また、春埼の立ち位置はケイの選択の前提(リセットの能力者)ともなっているので、

これまたケイの選択の根幹に関わる事になりそうです。

こうした個人の思惑と世界の構造が複雑に絡みあう様子が見えてきた事で、

より一層ケイの選択の倫理性が問われる物語になりそうなのでますます期待が高まって来ています。

個人的にはケイの選択に対する春埼のリアクションの変化に今後より一層注目して読みたい


おまけ:『タイムリープ』と『サクラダリセット


こういう風に考えると高畑作品における運命の捉え方ってのは非常に興味深いなあと。

サクラダリセットを読んだけど高畑作品未読って人は、

読んでみるといいんじゃないかな。

クリス・クロス―混沌の魔王 (電撃文庫 (0152))

クリス・クロス―混沌の魔王 (電撃文庫 (0152))

*1:リセットの定義に関しては過去記事を参照ください http://d.hatena.ne.jp/pushol_imas/20110106/1294305695