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レスター伯の限界

なんもかんも政治が悪い......

世界の終わりを見つめる女子高生 ―五十嵐藍『ワールドゲイズクリップス』のすすめ―

 とりあえず何も具体的な記事を書かないまま放置したのでは、わざわざ新たなブログをはじめた意味がないので、最近読んだ漫画の中でピカ一だった五十嵐藍『ワールドゲイズクリップス』を紹介してみる。

 

 

 五十嵐藍といえば鬼灯さん家のアネキで姉モノの傑作コメディーを描き、多くのファンを獲得した作家という印象が強い人が多いのではないだろうか。実際に僕も、過去にアネキを絶賛する記事を書いた。妹物の傑作が溢れかえる世の中において、かわいいアネキに主人公が振り回される四コマは非常に貴重で、姉属性持ちにはパラダイスのような作品だった。

 

 

 一方で、『アネキ』の中に水野さんという黒髪ロングのキャラがいた。常にけだる気で、誰とも一定の距離をおいて接する。アネキが人なつっこさの中に寂しさと優しさを同居させたコメディ面を体現したキャラだとしたら、水野さんは女子高生のはかなさと美しさと、そしてある種の神聖さを体現するキャラである。

 

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 この「黒ロン=水野さん」から漂ってきたサブカル的な要素は、初期作品集である『ローファイ・アフタースクール』で全開になる。全編通して女子高校生のアンニュイさと世界に対する諦めから成り立っていて、アネキから入った読者はノリの落差に少し殴られた感じがしたのではないだろうか。

 

ローファイ・アフタースクール―五十嵐藍短編集 (BLADE COMICS)

ローファイ・アフタースクール―五十嵐藍短編集 (BLADE COMICS)

 

 そんな二つの異なる色合いの作品を経て、新たに始まった連載が今回紹介する『ワールドゲイズ・クリップス』である。一読した感想は、新作は『ローファイ・アフタースクール』的な空気こそが五十嵐藍の本質であって、統一された空気感を伝えることに重点を置いているため、作品の構成も長編ではなく、3話程度の短編を連作するという形式にしているんだなというものだった。

 

 ただ、サブカル的空気が前面に押し出されているとはいえ『アネキ』を経た作品なので、キャラの固有性・定着性は低いものの、『ローファイ・アフタースクール』に比べると個性が強調されており、また短編間の緩やかな繋がりが一つの単行本として発刊することの意義を強めている。

 

 それを最も感じるのが、これだけ女子高生のアンニュイな空気を押し出した作品であるにも関わらず、伝家の宝刀「黒髪ロング」を3つ目の短編まで温存して最も重いテーマでぶつけてくる構成にある。しかも、モチーフ自体が繰り返されており、それがもっとも露骨な形で表現される話が黒ロンヒロインなので、読み始めた時のガッツボーズ(水星さん談)が半端ないことになる。

 

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*モチーフという意味では、『ローファイ・アフタースクール』の時から「『世界の終わり』を前に達観する女子高生との出会い」を繰り返していて、そこからTMGEを思い浮かべてしまう。

 

 

 こうした構成の妙こそ、アネキというコメディ作品を描ききった経験が最も強く反映されている部分で、独特の壊れそうに繊細な女子高生ものの空気感を壊すことなく、それでいて単行本という形式で漫画を読ませることに意味をもたせている。

 

 後は、『アネキ』の美咲のようなぶっ飛んだ変態キャラとかも出してくれたらもういうことないかな。

 

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 個人的に2012下半期ベスト1候補に推したい作品なので、ぜひぜひ読んでみてください。