レスター伯の限界

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Jコミで再会しkindleで購入するー鈴木みそ『限界集落(ギリギリ)温泉』

 日本版Kindleがスタートからしばらくたちましたが、みなさまいかがおすごしでしょうか。僕はハード自体は買ってない訳ですが、昨年末に購入したiPad miniを使ってkindleやBookwalkerで購入した電子書籍ライフを存分に楽しんでおります。

 先日のPS4の発表会ではないですが、いくらハードがよくても、ソフトのコンテンツが充実しなければ意味はないものです。amazon.co.jpでもkindle対応の漫画や小説が段々と充実してきてはいますが、最新作を書籍版と同時に(もしくは早く)、かつ安価に買うという点に関しては、一部の作品を除いてはまだまだと言わざるを得ない状況が続いています。

 

 かくいう僕も、漫画に関しては、一部ラノベの話題作(最近だと『スカイ・ワールド』『変態王子と笑わない猫』あたり)を気軽に読むという以外では、もはや個人的な聖典となった『咲-Saki-』『咲-Saki-阿知賀編 episode of side A』『咲日和』や、昨年ベスト小説に上げた『天冥の標』など、既に書籍版で持っているけれども、何度も読み返したい傑作を、いつどこでも読めるように改めてkindle版も購入するくらいにしか使えていません。

咲ーSakiー 1 (ヤングガンガンコミックス)

咲ーSakiー 1 (ヤングガンガンコミックス)

 

 そんな中で、先日とある作品がkindleでセール中だということをしって思わず買ってしまいました。それが、今回紹介する鈴木みそ限界集落温泉』です。

 作品自体も面白いのですが、この作品のkindle版を購入するに至る経緯が少し面白かったので、鈴木みそという漫画家の試みも併せて紹介することで、日本における電子書籍の可能性の一端についても触れたいなあと思っています。

限界集落温泉 1巻 (BEAM COMIX)

限界集落温泉 1巻 (BEAM COMIX)

 

 鈴木みそは10代〜20代前半くらいにはあまりなじみのない作家かも知れませんが、僕のようなアラサー世代からアラフォー世代にとっては少し懐かしい存在ではないでしょうか。彼は80年代中盤に、ジャンプやファミコン必勝本などで、コラムや読者ページを担当するライターとして活動した後、漫画家としてルポルタージュ的な漫画を描いた作家でした。個人的にはファミ通で連載されていた、ゲーム業界に関するルポ漫画『あんたっちゃぶるが印象に残っています。

 とはいえ、漫画家としてそこまで有名であった訳でもなく、僕も最近までその存在をすっかり忘れていたのですが、ふとしたきっかけでその存在を思い出すことになります。そのきっかけというのが、常連になっているとあるDQRTAニコ生を見ていた時に、僕と同世代の生主が「最近JコミにUPされた鈴木みその『あんたっちゃぶる』を読み返したら懐かしくなった」というコメントでした。

 ちょうどそれが昨年の11月頃、つまり僕がiPad miniを購入した時期だったこともあり、Jコミアプリのテストにピッタリだと思い、まおゆうアニメ化の復習を兼ねた『精霊ルビス伝説』と一緒にDLしたのでした。読み返してみると、小学生の頃にファミコンで遊んだ思い出が蘇るとともに、田舎の小学生には十分に理解できていなかった東京におけるゲーム業界・販売の裏側を改めて知ったり出来て、懐古的かつ新鮮な体験でした。(作中に、当時ファミ通編集部、現エンターブレイン社長(最近よくゲーム業界について語ってる人)の浜村さんが出てきた時なんかは思わず吹いたりも)

Jコミ | あんたっちゃぶる

Jコミ | 精霊ルビス伝説 

 

 とまあ、ここまでならアラサーによる懐古談で終わってしまう訳ですが、記事を書いているということは話はそれで終わらないのです。Jコミ掲載作家の最新作の情報も逐一流しているJコミのtwitter@jComi_PR)が、「鈴木みその近作がkindleで100円で買える」という情報をつぶやいていたのがふと目に入ってきました。

 『あんたっちゃぶる』面白かったし、「100円なら買って損することは無いだろう」と思い購入したのが今回の本題にあたる『限界集落 1巻』です。単に絶版本を広く公開すると同時に再マネタイズするだけでなく、作家の最新の活動もきっちりフォローする。さすがJコミ、さすが赤松健こうして僕はJコミを通じて過去の鈴木みそと再会すると共に、kindleを通じて彼の最新作を格安で購入したわけです。

 

 それで、肝心の『限界集落温泉』ですが、鈴木みその出身地である伊豆半島の下田のしなびた温泉街を、東京からドロップアウトしたクリエイターとオタクとネットアイドル(メイド)が再建するというストーリー。最初の数十ページは地味な感じですが、1巻の中盤あたりからネットアイドルなメイドを御輿に担ぎ上げて(とりあえず彼女が出てくるまで脱落せずに頑張れ)、クリエイター陣がオタクのエネルギーを活用しようと奔走しだすと一気にアクセルがかかってきて面白くなってきます。(是非、2巻最後で出てくる「いかにもサークラー」な女の子までたどり着いてほしい)

 オタクで村おこしというと流行りにのった、今ではありきたりになった題材という印象をもつかもしれません。しかし本作は、かつて日本の高度成長に乗っ掛る形でレジャー化が進んだものの、現代では過疎化が進み限界集落化してしまい活力をすっかり失ってしまった田舎と、オタク業界の疲れ果てた若者達という水と油の素材を、リアリティと妄想のバランスをギリギリでとりながら、絶妙にマッチングさせて描写することに成功しています。いわば、戦後日本が産み出し、今では衰退した「楽園=箱庭」に、東京という楽園から脱落したオタクたちが再び自分たちの「箱庭=楽園」として築き上げる話なんですよね。

 元々ゲーム業界のルポからスタートし、その後20年以上に渡ってアジア諸国等の地域に密着したルポ漫画を地道に描いてきた鈴木みその貫禄が感じられます。また、本編を読んだ後に、あとがきにおける鈴木みその地元に対するまなざしに触れるとなんとも言えない気持ちになるでしょう。

*ちなみに敷居さん(id:sikii_j)に読ませてみたら、「これ『らくえん』だよね」っていわれて、なるほどと手をうってしまいました。

らくえん ~あいかわらずなぼく。の場合~ - アダルト美少女ゲーム - DMM.R18  

 

 元々本作はコミックビームで連載されていたわけですが(つまり『テルマエ・ロマエ』と同時期にもう一本温泉漫画の連載があったわけです)、そして電子化されていなければ(もっと言えば、1巻が100円でなければ)僕が読むことは多分無かったと思います。つまり、Jコミとkindleという場が整備され、鈴木みそという作家がそのインフラを積極的に活用した結果、僕という読者に届いたのです

 しかもですね、こうした体験をしたのは僕だけではないはずです。というのも、鈴木みそのブログでも述べられていますが、100円という値段もあって限界集落温泉』はkindleでも上位の売り上げを誇り(2巻以降は100円ではないけど、200円ほど定価より安い)、本作の後に出版された東日本大震災をテーマにした『僕と日本が震えた日』(こちらは半額で販売)に至っては、つい先日『乙嫁語り』(これまたビームコミックスなんですけど)に抜かれるまでkindleセールス1位(2万部超の売り上げで、500万円強の収入)だったわけです。読者は気軽かつ安価で作品に触れられるし、ロイヤリティの関係で作家も十分な収益を得られるという、まさにwin-winで理想的な電子書籍化。

*ちなみに作中で主人公に「もうエンターテインメントで飯食うのは無理だよ」と言わせてるんですけど、まさかのkindleで売れて作者自身がビックリしてるというリアルがたまらんのですよ。

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僕と日本が震えた日

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 また、こうした形で思いかけず時の人となった鈴木みそは、ストリーミングやイベントにおいて積極的に電子化について語るみたいなので、注目しておくといいのではないでしょうか。

2月22日21時放送:【番組告知】今、個人出版がアツい ならば聞こう、鈴木みそさんに――eBook TV第8回 - ITmedia eBook USER 

イベント「電子マンガサミット」予約開始 - CHINGE 

 

 作家と出版社とインフラがカッチリ噛み合うことで産み出されたシナジー。鈴木みそのように、今後、面白い漫画が電子書籍の形でより手軽に読者の下に届けられるようになってほしい。

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