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ずっと求めていた少女漫画の映画があった—劇場アニメ『ハル』のすすめ—

 先週末映画館に『劇場中編アニメーション「ハル」』を観に行ってきたのですが、これが想像の数倍すばらしくて、思わず泣きそうになってしまったので、今回は全力で紹介したいと思います。

 

劇場中編アニメーション「ハル」 | 人とロボットの奇跡の恋を描く劇場中編アニメーション  

 

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 ハルのあらすじを公式サイトから一部引用してみます。

 

「ハルとくるみの幸せな日常。

 いつまでも続くと思っていた日々は飛行機事故で突如終わりをつけた。

 けんか別れのまま、最愛のハルを失い、生きる力も失ってしまったくるみ。

 彼女の笑顔をとりもどすため、

 ヒト型ロボットのキューイチ<Q01>は、

 ハルとそっくりのロボハルとしてくるみと暮らすことに。」

ハル公式サイト「ストーリー」より)

 

 ヒト型ロボットというSF的要素を含みつつ、基本的には現代と変わらない京都を舞台にした、ちょっぴり切ないラブストーリー。それがハルです。

 

 しかし、これだけでは映画ハルの魅力は伝わらない。そこで、以下では四点ほどこの映画のすばらしさをあげてみたいと思います。

 

①:咲坂デザインの魅力的なキャラクター

 そもそも僕がこの映画を見に行こうと思ったのは、キャラクター原案が咲坂伊緖だったからです。『ストロボ・エッジ』、そして『アオハライド』を連載してきた咲坂伊緖は、今や別冊マーガレットが誇るエース作家の一人で有り、甘酸っぱく切ない青春ラブストーリーが魅力的な作家です。

ストロボ・エッジ 1 (マーガレットコミックス)

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アオハライド 1 (マーガレットコミックス)

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 そんな咲坂デザインの魅力的なキャラクターが映画で見えるという一点だけでも、個人的には劇場に足を運ぶのはマストといっていいくらいなのですが、逆にアニメ化によってその魅力が薄れてしまう心配もあります。しかし、それは奇遇であって、劇場アニメの中に登場するキャラクターは、いつも漫画で読んでる咲坂伊緖のキャラクターでした。本当にすごい。

 そしてなにより、ヒロインのくるみがこれ以上なく可愛いのです。恋人を失い押し入れに引き籠もり状態になってしまったくるみが、物語が進むにつれて外に出るようになる中でみせる笑顔はすごくまぶしい。CV.日笠陽子な点も含めて、このヒロインガチですよ。

 

②:美しい京都の情景

  二点目に京都の美しい情景をあげることが出来ます。冒頭の貴船から叡電にのって市街地の方にやってくるシーン、鴨川のデルタの飛び石を渡るシーン、錦市場で買い物をするシーン、そして祇園祭の山鉾巡航のシーン。

 長いこと京都(特に百万遍周辺と四条付近)に住んでいた僕からすると、「まーた、聖地が来てしまったのか」という感覚でしたが、そうでなくても春から初夏にかけての美しい京都の情景に目を奪われることでしょう。

 僕個人としてポイントが高かったのは、山鉾巡航のシーンで、御池通から最後に山鉾が引っ込む細い路地で山鉾の巡航を描いたシーン。あの場所は、観光客が集まると言うより、四条周辺に住んでる地元住民にとってのとっておきの場所で有り(かつて四条に済んでたときに近所の人にすすめられたりしました)、そこを舞台に選んでいるのが細かいところまでよく気が配られているなと関心したものです。

 

③:①②をいかす作劇体制

 そうしたキャラクターの魅力と京都の情景を描くための作劇体制もよく出来ていました。本作は現在「進撃の巨人」を制作しているWIT STUDIOが手がけているのですが、決して大量の予算がつぎ込まれた作品ではありません。しかし、限られたリソース(第一作画も20人以下とちょっと豪華なTVシリーズ並)を有効活用して、見事な作品世界を作り出しています。

 例えば、同時期に公開されている新海誠の新作「言の葉の庭」と比べると、細かいところのアニメーションは半分も動いてないでしょうし、一画面に登場するキャラクターも少ないです。その分、背景だったり、小物だったり動かさなくていい部分をきっちり書き込んでいて、見ているとそうした細部から作品世界の雰囲気を伝えることに集中していることが分かります。

 また、リソースが限られていることを有効利用して、徹底して「狭い空間」を描くことに尽力しています。特にくるみが引きこもっている町屋風の住居兼雑貨屋だったり、その町屋が存在する裏路地だったり、京都の狭い部分と心を閉じたくるみの心情をリンクさせることで、最小限の労力で最大限の効果を引き出す。

 動かないし、空間の狭さが目立つが故に、少女漫画的な心情描写がうまくアニメ映画の中で表現されているし、後半の展開におけるカタルシスに繋がるようになっているのがすばらしいのです。

 

④:巧みな構成と浮かび上がる少女漫画的構造

 そして何よりすばらしいのは、キャラクターや情景の魅力を引き出し、貧弱な作劇体制を逆に活用することにつながる、全体の構成の巧みさです。

 本作は60分の中編映画ですが、その分起承転結のリズムがしっかりしていて、無駄な描写をできる限り省きつつ、必要な要素は全て書き切っています。また、SF的要素が入っている作品であることを活かして、ちょっとした仕掛けを施すことで、60分の物語といてのカタルシスを最大限加速させる様に出来ています。

 そして僕が一番感心したし、うれしかったのは、そうした構成をとった結果として浮かび上がってくるのが、まさに僕が青春時代に読んでいた集英社的な少女漫画の魅力だからです。

 本作のヒロインくるみは、最初にも書いたように引き籠もりとして描かれるなど少しトリッキーな配置に置かれています。しかし、物語が進む中で、影を背負っているのはくるみではなくハルのほうであり、くるみは純粋さを体現したヒロインとして再浮上してくるのです。

 ああ、これだよ、僕が見たかったのはこういう「りぼん」的なヒロインなんだよ!

「天ないの翠ちゃんが大好きなんだよ、悪いか!!」

と思わず叫びそうになるくらい、興奮ですよ。

天使なんかじゃない 完全版 1 (愛蔵版コミックス)

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 本作の場合にはその上でもう一つ仕掛けがあるので、それも併せて60分の中でこれでもかと感情を揺るがしてくれます。最小限のパーツを最小限の人員で描きつつ、巧みに構成をくみ上げることで最大限の効果をあげる。まさに、少女漫画のアニメ映画化をする上でお手本とすべき作品だと思います。

 

 といった感じで、劇場アニメ「ハル」をおすすめする記事をかいてきました。10年前に比べて映画館に行く機会がめっきり減ってしまったのですが、学生の頃はミニシアター系の邦画なんかを中心によく映画をみにいってました。その頃に見ていた実写の邦画映画に感じてたのと似たような感覚が、個人的にはこの「ハル」からは感じられるのですよ。まさしく「これだよ、こういうのでいいんだよ」です。

 劇場版はまだもう少し公開しているようですし、是非是非映画館に足を運んでみてください。また、綾瀬羽美によるコミック版(残念ながら咲坂伊緖でなくですが)、脚本を担当した木皿泉による小説版も発売されていますし、一人でも多くの人に体験してもらいたい。

ハル (マーガレットコミックス)

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ハル (WIT NOVEL)

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