ヤングアダルト世代にも読んで欲しいWeb小説 ―『魔法科高校の劣等生』のすすめ―
先月iPadを購入したのをきっかけに色々とWeb小説やWeb漫画を読み始めてみたのですが、
敷居さん(id:sikii_j)やいずみのさん(id:izumino)に進められて読み始めた、
が抜群に面白いです。
極めて単純にまとめると魔法が確かな技術として定着した約100年後の世界を舞台に、
「劣等生」兄達也と「優等生」妹深雪が中心となって繰り広げられる魔法学園小説です。
僕は基本的にラノベは最初期(だいたい高畑、上遠野、賀東あたり)で止まっていて、
Web小説に関してもこれまで食わず嫌いしてきたのですが、
実際に読み進めていくとその面白さは、僕の中のWeb小説のイメージを塗り替えてくれました。
そこで今回は、30代前後のいわゆる「ヤングアダルト小説」世代をメインターゲットにして、
『魔法科高校の劣等生』の魅力について語ってみたいと思います。
1.「科学的」な魔法描写
かつて「超能力」と呼ばれていたものが、四系統八種類の現代魔法として技術化され、
社会に取り入れられたというのが『魔法科高校』の世界観の根幹となる設定です。
魔法が技術化されたと書きましたが、
実際に魔法を使う際にはCADと呼ばれる補助装置を使うのが一般的で、
ソフト(起動式)をプログラミングしたハード(CAD)を操作して、魔法を「起動」するプロセスは、
根本的な発動原理はともかくとして、まるで「科学技術」を使いこなしているようでもあります。
また、随所に挟まれる魔法の原理に関する描写も、
まるでハードSFを読んでいるのかと錯覚してしまうくらい「科学的」に記述されており、
魔法ファンタジーを楽しもうと思って読み始めると面食ってしまうかもしれません。
現に主人公である達也は、「一般的」な意味では魔法の才能にかける「劣等生」であり、
魔法師よりも、魔法師を支えるツールの制作・調整を行う「魔工技師」を志望しています。
その設定自体が、この世界における魔法の立ち位置を示しているといえるでしょう。
僕は元々ファンタジーよりもミステリとかSFが好きなので基本的には大歓迎なのですが、
それでもついていけなくなるくらい魔法に関する設定は緻密であり、
その分ハードな設定描写を求める方も満足できる内容になっていると思います。
また、進化した交通・情報インフラの描写も近未来SFっぽさを醸しだしているといえるでしょう。
こういう風に書くと、軽い気持ちで読もうと思っている方には逆に重荷になるかもしれませんが、
作者自身が認めているように、
小難しい部分はさっくり流し読みしても物語の大枠には影響はそんなにありません。
(外伝のページには魔法設定に関する用語説明集もあるので、補足も可能)
また、「ファンタジーが読みたい!」と思っている方もご安心ください。
いかにも技術的な「現代魔法」だけでなく、
精霊の使役や、忍術のような秘術も「古式魔法」として存在しており、
陰陽師や忍び的なキャラクターも登場する、多様な魔法世界が構築されています。
それに、初めは知的駆け引きの要素が強い魔法戦闘の描写も、
章が進むにつれ、徐々にチートな奥義級の魔法が繰り出されるようになってくるので、
その差がカタルシスにつながって、爽快さを味わうこともできるのでご安心ください。
参考:魔法用語集
2. 萌えとは異なるキャラクター描写
1でハードな魔法説明描写をサラッと流しても楽しめるとかきましたが、
それは登場人物の描写が魅力的だからに他なりません。
なのですが実は、本作に於いてはキャラクターの外見描写がほとんどない。
詳細な描写がなされているのは主人公の妹の深雪と、
後はかろうじて生徒会長の真由美さん(ミニマムなのにグラマー)くらいで、
他のキャラクターに関しては大体の背格好や身体的な特徴が書き込まれるのみ。
例えば主人公の達也の外見に関してぱっと目に描写としては、
身長175センチくらい、顔は「中の上くらい?」(ある登場人物に言わせると「結構イケメン」)があるくらい。
そもそもラノベと違ってイラストがないということを考えると、
ビジュアル的にキャラクターを記号化して、その魅力に萌えるのはかなり厳しいのです。
(現状ではakiさんといずみのさんがpixivにキャラ絵をあげていますが、今後のさらなる展開に期待したい部分。)
(10月11日追記:いずみのさんと一緒にpixiv百科の記事を整備してます。わかる限りの外見情報を記述して言ってるので、描きたいなあと思ってる方はぜひご参照ください)
深雪さん
もう一つ深雪さん
達也のクラスメートのエリカと美月
では、何がキャラクターを特徴付けるかといえば1で書いた魔法に他なりません。
この世界では魔法を使えるのは一部の優れた才能を持った魔法師だけであり、
しかもその能力は遺伝的に引き継がれ易い傾向にあるため、
ほとんどのキャラクターがいうなれば「魔法の名門一族の子弟」にあたります。
魔法の発展が人体改造や能力開発と密接に結びついていたという設定を考えると、
一族を象徴する魔法は、キャラクターの存在意義と切り離すことが出来ないわけで、
だからこそ、緻密で「科学的」な魔法描写が必要なのではないでしょうか。
このようにキャラクター描写は外見よりも
むしろ魔法と不可分な形でなされているわけですが、
だからといってキャラクター同士のやりとりがつまらない訳ではありません。
主人公の達也さんに女性キャラの関心が集中気味ですがハーレムとまではいきませんし、
ラブコメ的なノリのカップルや普段は微笑ましく口論しつつも相性ばっちりのクラスメート、
深雪の美貌にたじたじになってしまう名門のプリンス(笑)もいれば、
魔法という才能の格差や偏見に端を発する憎悪のせいで、悪の誘惑に負けてしまう者…
読み進めていけば、どのキャラクターもいとおしいく感じられるはずです。
1で書いたように魔法描写の密度が濃いので、
その分一度読んだだけではキャラクターをつかめない部分もありますが、
二度三度読み返していくうちに、
それまでは気付かなかった新たな魅力に気づくことも多々あって、
それが『魔法科高校』という物語の深みにつながっていると言えると思います。
参考:人物紹介
3. 見てる方が恥ずかしくなる兄妹描写
とまあ、1・2で魔法とキャラクターの魅力について書いてきましたが、
この物語の最大の魅力はなんといっても、
「主人公達也とその妹深雪」
にあると言わざるをえません。
特に、深雪さんの兄に対する崇拝とも敬愛ともなんとも言いがたい感情は、
正直見ててキュンキュンしてたまりません。しかも、結構嫉妬深いしw
僕もこの物語にはまり込んだのは、1章の途中で深雪さんが達也さんに対して、
「お兄様、ずるいです…」(1−13 慕情より)
と詰め寄るシーンがきっかけでした。
この後のやりとりが、もう、たまらなく素晴らしいのですが、
これ以上書いちゃうと楽しみを奪っちゃうのでやめておきます。
また、兄の達也さんもまんざらではなく、妹じゃなければ云々…的なこと言っちゃいますしw
しかも旨いなあと思うのは、こうした他人の入る隙間を与えない兄妹の関係性が、
単に描写として魅力的なだけでなく、設定の根幹に大きく関わっているからなのです。
最初に兄達也は「劣等生」とかきましたが、
それは魔法科高校の基準に照らし合わせてのことであり、
実際には圧倒的な戦闘能力と、
誰にも真似できない魔法を使うことが出来ます。
一方で妹の深雪は第一高校に首席で入学しただけでなく、
実はとある名門一族の時期頭首候補であり、
それ相応の圧倒的な魔法能力(と美貌)の持ち主です。
こうした司波兄妹の異能さと、
兄妹の一線をいつ超えるかもわからない異常な関係は、
実は密接な関係にあり、
その秘密が明かされる第四章を読むと、
もうこの世界から抜け出せなくなると予言しておきましょう。
4.まとめ
以上、三点を簡単に要約するなら、
緻密な魔法体系をベースに高密度に組み上げられた世界観・設定をかみしめた上で、
単なる記号には収まらない魅力的なキャラクターたちが動きまわるのを楽しみつつ、
兄妹のラブラブっぷりと圧倒的な魔法力によってカタルシスも味わえる
というのが『魔法科高校の劣等生』の魅力じゃないかなあと思います。
ライトに楽しみたい人はキャラクターを中心にサックリ読み進めるといいですし、
逆にヘビーに楽しみたい方には細かい設定をじっくり読みといていくことをおすすめします。
いずれにしても幅広い層の読者が楽しむことができ、
かつ、繰り返し読むことでその魅力をより一層味わうことが可能な素晴らしい作品なので
みなさんも、深雪さんの魅力にメロメロにされちゃうといいと思いますよw
ペトロニウス&いずみの&敷居で『魔法科高校の劣等生』(『敷居の先住民』)
『魔法科高校の劣等生』の話を平和さんとUst (『ピアノ・ファイア』)
個人的にはここら辺のラノベがピンとくる人には読んでほしいかなあ。
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5. 備考
なお、『魔法科高校の劣等生』が掲載されているサイト、『小説家になろう』では、
「まおゆう」でおなじみの橙乃ままれさんの『ログ・ホライズン』も読むことができます。
ネットゲームの世界から帰還できなくなり、
VR(仮想現実)の世界で以下に生き延びていくのかをテーマにした作品で、
メタ的な視点が好きな方にはおすすめの一作です。
もうちょっと古いところでは岡嶋二人の『クラインの壺』なんかが好きだった人には、
特に読んでもらいたいですね。
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