レスター伯の限界

気付いたらVtuberになってた

フットボールには夢がある! ―新川直司『さよならフットボール』のすすめ―

 先週は文字通り一週間ずっと

 サークル敷居亭」の冬コミ新刊

 の作業にかかりっきりでした。(本については今週中に告知できるかな)

 そのため精神的に漫画とか小説とか楽しめる余裕がなかったのですが、

 終わった後に読んだ漫画が楽しくて楽しくて。

 そんな中、新川直司さよならフットボール

 というすばらしい作品に巡り合えました。

 マジ傑作です!

さよならフットボール(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

さよならフットボール(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

1.女子サッカーでも女の子のサッカーでもなく…

 『さよならフットボール』の主人公は中学二年生の女子、恩田希。

 要するに女の子がサッカーをする漫画なんですが、

 女子サッカーの話ではなく

 女の子がサッカーをする話である点がこの作品のポイント。

 つまり、希は女子サッカー部でサッカーをするのではなく、

 男子サッカー部にただ一人女子としてまじってサッカーをプレーするのです。

 男女の肉体的な差がごまかせなくなってくる中学校が舞台になっており、

 いくらテクニックではだれにも負けないにも関わらず

 フィジカルという絶対的な壁にぶつかることになります。


 ただ、この作品の魅力となっているのは、

 単純に「女子が男子サッカーの世界に挑む」という構図にしなかったこと。
 希は小学生時代には子分のように従えていたナメックにフィジカルで圧倒される中で、

 自らのフットボールにもう一度見つめ直します。


 そして、誰よりも多く練習する事で身に付けたテクニックと、

 誰よりも真摯にフットボールに向かい合ってきた事で得てきた仲間たちの支えを背に、

 男子であることも女子であることも関係のない

 恩田希という一人のプレーヤーとして試合に挑み、

 全身でプレーし、楽しんでいるのです。


 それゆえ、『さよならフットボール』は女子サッカーでも女の子のサッカーでもなく

 恩田希というフットボーラーの漫画として魅力的なのです。

2.フットボールへのリスペクト

 そうした恩田希のフットボールを支える要素として、

 作中では過去の名選手へのオマージュがちりばめられています。

 たとえば、ヨハン・クライフペレの名言、

 エラシコロナウジーニョ)やルーレット(ジダン)のテクニックなどを見かけると、

 「フットボールが好きなんだ」という作者の想いが伝わってくるだけでなく、

 先人達が積み上げてきたフットボールの歴史の上に

 希のフットボールがあるんだということを感じ取ることが出来ます。


 歴史が単にペダンティックに配置されているのではなく、

 希を自由に羽ばたかせる翼を与える役割を果たしているのです。

 そのうえで、こんなセリフを言わせちゃうんだから、

 もうたまらんのですよ。

3.フットボールには夢がある

 このように希とフットボールという魅力的な題材に支えられ

 『さよならフットボール』という作品には夢が詰め込まれているのです。

 そう、『さよならフットボール』は単なる漫画じゃない、

 僕らをドキドキさせてくれる

 夢を見せてくれる魔法なんですよ!


 こぶしを突き上げ、魂の咆哮をぶちまける

 カンプ・ノウの雰囲気にも負けない熱さがこの作品にはあります。*1


 フットボールは、世界はこんなにも楽しいのだ!」

 おもわずそう叫びたくなる大傑作だと自信を持ってお勧めします

 2巻完結なのでさっくり読めますし、

 恩田希のフットボールに魅了されちゃってください!

さよならフットボール(2)<完> (KCデラックス 月刊少年マガジン)

さよならフットボール(2)<完> (KCデラックス 月刊少年マガジン)

余談:恩田希のフットボールと達海猛のフットボール

 『さよならフットボール』を読んでどうしても想いをはせずにはいられなかったことは、

 GIANT KILLING』の主人公達海猛の事でした。

 達海は監督としてETUというクラブを率い、

 選手、スタッフ、サポーターたちにフットボールの楽しさを伝える男です。

 一方で、過去編でも描かれたように、

 彼もまたそのプレーで人々を魅了してやまないフットボーラーでした

 恩田希というフットボーラーの物語は

 達海猛というフットボーラーの目にはどのように映るのでしょうか。

GIANT KILLING(1) (モーニング KC)

GIANT KILLING(1) (モーニング KC)

*1:言わずと知れたFCバルセロナのホームスタジアム。タダでさえサポーターが熱いのに、スタジアムの構造上、声が反響しやすく試合の時はそりゃあヤバイことになる。