上崎さんと本気で恋しようじゃないか ―『アマガミSS』全ヒロインレビューのすすめ 特別編―
メインヒロイン6人分を書ききった『アマガミSS』全ヒロインレビューですが、
アマガミSSのTV放送は24話ではなく25話まであったわけです*1。
参考:ヒロインと本気で恋しようじゃないか ―『アマガミSS』全ヒロインレビューのすすめ 前編―
ヒロインと本気で恋しようじゃないか ―『アマガミSS』全ヒロインレビューのすすめ 後編―
サブヒロインとしてのヒロインの在り方 ―『アマガミSS』全ヒロインレビューのすすめ 補論―
BDが発売されるまで待とうかなと思ってたんですが、
やっぱり一人だけ遅れるのもなんだかなあと思ったので、
やってしまいましょう、上崎裡沙編のレビューも。
上崎さんの位置づけに関しては色々と語りもありますが*2、
僕は初志貫徹。
「ヒロインと全力で青春時代の恋をする」
というこれまでと同じ視点に基づいて上崎さん編をレビューしたいと思います。
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1.上崎さん編のポイント
ゲームでは隠しヒロインであり、アニメでもイレギュラーな扱いだった上崎さん編のポイントは
1.二年前のクリスマス
2.アニメでは全ヒロインのフラグを折ったこと
3.上崎さんの特徴は「かわいさ」と「ずっと好きでいる」点
だと思います。
また、アニメ放送上の問題として
4.尺が1話30分のみであること
も上げることができるでしょう。
これらの問題を踏まえたうえで具体的な考察に入っていきます。
2.二年前のクリスマス
二年前のクリスマスといえば、橘さんのトラウマの原因となった事件です。
この時にデートをすっぽかされたことで、橘さんは恋愛に対して臆病になったわけで、
その克服が橘さん側からみた主題であることに異論はないでしょう。
しかし、事件の裏には上崎さんの存在があったわけです。
この一件は上崎さんの特別性の根拠の一つになるわけですが、
僕がここで重視したいことは、
二年前のクリスマスの事件が橘さんにとっての恋愛トラウマのきっかけとなっただけでなく、
上崎さんの恋愛にとっても障壁の始まりであったということです。
端的にいえば、フラグをクラッシュしたことで、自分も普通に橘さんに接近できなくなる*3。
こう考えると、二年前のクリスマスは上崎さんに十字架を背負わせる事件でもあったと言えるのではないでしょうか?
3.6人のフラグを折らなければならない理由
ゲームとアニメの上崎さん編における最大の違いは全員のフラグを折るという点でしょう。
では、なぜ『アマガミSS』では全員分のフラグを折らなければならなかったのでしょうか?
最も単純な理由は、他のヒロインと違って尺が1話30分だということです。
また、上崎さんは他のヒロインと違ってサブヒロインとして描写を積み上げることもできません。
つまり、たった一話の一発勝負でインパクトのある話にするには、
6人全員のフラグを折るくらいの展開が必要になってくると考えることはできるのではないでしょうか。
もちろん、構成上のインパクトの問題だけが理由だと主張するつもりはありません。
例えばインパクトだけでいえば、
ゲーム版のように上崎さんを一蹴する絢辻さんの方がインパクトはあるでしょう。
むしろ重要なのは、オムニバスとしての24話までの積み上げを壊さないためには、
6人全員のフラグを平等に折る必要があったということです。
このように、上崎さんは6人全員のフラグを折ることで、
上崎さんはオムニバス構造を壊しているわけではなく*4、
むしろここまで積み上げてきた『アマガミSS』の世界観を維持しています。
この点は、作品の世界観を壊す存在である『ときメモ4』の隠しヒロイン都子と比べると明確でしょう*5。
参考:『ときメモ4』と『生徒会の七光』がゼロ年代最後尾のリリースであることの意味―ピアノ・ファイア―
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4.恋をするために
では、『アマガミSS』の世界を壊さなかった上崎さん編のテーマとは何だったのでしょうか?
この問題を考える上で重要になってくるのは、
上崎さんの特徴が「かわいい」、「橘さんをずっと好きでいる」という点だということです。
ゲームでは、ビジュアルが出る前後でカタルシスによってかわいさが増幅される訳ですが、
尺が短い分、アニメでは上崎さんの「かわいさ」は初めから前面に押し出されており*6、
橘さんも上崎さんが「かわいい彼女」になったということを喜んでます。
また、橘さんが常に気にしているのは、
「なぜ上崎さんが自分のことを好きでいてくれるのか」です。
その一方で、上崎さん側からみれば「自分がなぜ好きでいるかを告白すること」は、
自分の過去について告白することであり、
その意味で二年前の十字架とセットになっているのでしょう。
最終的に『アマガミSS』の上崎さんは、
ヒロインへの工作と二年前の真実を明らかにした上で、
自分が小学生の頃からずっと橘さんが好きだったことを告白しました。
ただ注意が必要なのは、
上崎さんは真相を告げることで橘さんとの関係は終わりになると思っていた点で、
その意味では、上崎さんの告白は贖罪の意識が強かったといえるでしょう。
しかし、ここで橘さんが男気を発揮します*7。
上崎さんの真の想いを知ることができた橘さんは、
二人で一緒にみんなに謝りに行くことを提案するのです。
この行動は上崎さんの内面での贖罪行動を、より公的な謝罪へと押し上げることであり、
それまで秘密裏にしか付き合えなかった二人が、
誰にも遠慮することなく堂々と付き合うために必要な儀式であり、
だからこそEDとして印象的に描かれるわけです。
つまり、二年前の事件によって他のヒロインとは同じ土俵に立てなくなった上崎さんが、
告白と謝罪を通じて自ら背負うことになった十字架を払拭し、
橘さんと恋愛することができるようになること、
これが上崎さん編のテーマなのだと思います。
そう考えるとEDテーマ曲のタイトルが『恋のゆくえ』なのも納得がいくのではないでしょうか。
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5.まとめ
まとめると、
二年前の事件によってメタ的な立場に立たざるを得なくなってしまった上崎さんを
他のヒロインと同様に橘さんと恋をできるような立場まで引き戻すための物語
これが僕にとっての『アマガミSS』上崎さん編でした。
もちろん『青春時代に全力で恋をする物語』として『アマガミSS』を捉えているという前提に立脚した見解であり、
30分という短い時間に詰め込まれているがゆえに様々な解釈が可能であることは否定しません。
ただ、最後に一つ言いたいことは、
「全力でヒロインと恋をするからこそアマガミSSは楽しい!」
ということです。
正直ここまでいれこめる作品もそうそうあるわけではありません。
たまにはいいじゃない、深く考えなくても。
好きなものは好きなんだと叫んでもねw
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