レスター伯の限界

気付いたらVtuberになってた

ずっと求めていた少女漫画の映画があった—劇場アニメ『ハル』のすすめ—

 先週末映画館に『劇場中編アニメーション「ハル」』を観に行ってきたのですが、これが想像の数倍すばらしくて、思わず泣きそうになってしまったので、今回は全力で紹介したいと思います。

 

劇場中編アニメーション「ハル」 | 人とロボットの奇跡の恋を描く劇場中編アニメーション  

 

『ハル』Blu-ray 初回限定豪華版

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 ハルのあらすじを公式サイトから一部引用してみます。

 

「ハルとくるみの幸せな日常。

 いつまでも続くと思っていた日々は飛行機事故で突如終わりをつけた。

 けんか別れのまま、最愛のハルを失い、生きる力も失ってしまったくるみ。

 彼女の笑顔をとりもどすため、

 ヒト型ロボットのキューイチ<Q01>は、

 ハルとそっくりのロボハルとしてくるみと暮らすことに。」

ハル公式サイト「ストーリー」より)

 

 ヒト型ロボットというSF的要素を含みつつ、基本的には現代と変わらない京都を舞台にした、ちょっぴり切ないラブストーリー。それがハルです。

 

 しかし、これだけでは映画ハルの魅力は伝わらない。そこで、以下では四点ほどこの映画のすばらしさをあげてみたいと思います。

 

①:咲坂デザインの魅力的なキャラクター

 そもそも僕がこの映画を見に行こうと思ったのは、キャラクター原案が咲坂伊緖だったからです。『ストロボ・エッジ』、そして『アオハライド』を連載してきた咲坂伊緖は、今や別冊マーガレットが誇るエース作家の一人で有り、甘酸っぱく切ない青春ラブストーリーが魅力的な作家です。

ストロボ・エッジ 1 (マーガレットコミックス)

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アオハライド 1 (マーガレットコミックス)

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 そんな咲坂デザインの魅力的なキャラクターが映画で見えるという一点だけでも、個人的には劇場に足を運ぶのはマストといっていいくらいなのですが、逆にアニメ化によってその魅力が薄れてしまう心配もあります。しかし、それは奇遇であって、劇場アニメの中に登場するキャラクターは、いつも漫画で読んでる咲坂伊緖のキャラクターでした。本当にすごい。

 そしてなにより、ヒロインのくるみがこれ以上なく可愛いのです。恋人を失い押し入れに引き籠もり状態になってしまったくるみが、物語が進むにつれて外に出るようになる中でみせる笑顔はすごくまぶしい。CV.日笠陽子な点も含めて、このヒロインガチですよ。

 

②:美しい京都の情景

  二点目に京都の美しい情景をあげることが出来ます。冒頭の貴船から叡電にのって市街地の方にやってくるシーン、鴨川のデルタの飛び石を渡るシーン、錦市場で買い物をするシーン、そして祇園祭の山鉾巡航のシーン。

 長いこと京都(特に百万遍周辺と四条付近)に住んでいた僕からすると、「まーた、聖地が来てしまったのか」という感覚でしたが、そうでなくても春から初夏にかけての美しい京都の情景に目を奪われることでしょう。

 僕個人としてポイントが高かったのは、山鉾巡航のシーンで、御池通から最後に山鉾が引っ込む細い路地で山鉾の巡航を描いたシーン。あの場所は、観光客が集まると言うより、四条周辺に住んでる地元住民にとってのとっておきの場所で有り(かつて四条に済んでたときに近所の人にすすめられたりしました)、そこを舞台に選んでいるのが細かいところまでよく気が配られているなと関心したものです。

 

③:①②をいかす作劇体制

 そうしたキャラクターの魅力と京都の情景を描くための作劇体制もよく出来ていました。本作は現在「進撃の巨人」を制作しているWIT STUDIOが手がけているのですが、決して大量の予算がつぎ込まれた作品ではありません。しかし、限られたリソース(第一作画も20人以下とちょっと豪華なTVシリーズ並)を有効活用して、見事な作品世界を作り出しています。

 例えば、同時期に公開されている新海誠の新作「言の葉の庭」と比べると、細かいところのアニメーションは半分も動いてないでしょうし、一画面に登場するキャラクターも少ないです。その分、背景だったり、小物だったり動かさなくていい部分をきっちり書き込んでいて、見ているとそうした細部から作品世界の雰囲気を伝えることに集中していることが分かります。

 また、リソースが限られていることを有効利用して、徹底して「狭い空間」を描くことに尽力しています。特にくるみが引きこもっている町屋風の住居兼雑貨屋だったり、その町屋が存在する裏路地だったり、京都の狭い部分と心を閉じたくるみの心情をリンクさせることで、最小限の労力で最大限の効果を引き出す。

 動かないし、空間の狭さが目立つが故に、少女漫画的な心情描写がうまくアニメ映画の中で表現されているし、後半の展開におけるカタルシスに繋がるようになっているのがすばらしいのです。

 

④:巧みな構成と浮かび上がる少女漫画的構造

 そして何よりすばらしいのは、キャラクターや情景の魅力を引き出し、貧弱な作劇体制を逆に活用することにつながる、全体の構成の巧みさです。

 本作は60分の中編映画ですが、その分起承転結のリズムがしっかりしていて、無駄な描写をできる限り省きつつ、必要な要素は全て書き切っています。また、SF的要素が入っている作品であることを活かして、ちょっとした仕掛けを施すことで、60分の物語といてのカタルシスを最大限加速させる様に出来ています。

 そして僕が一番感心したし、うれしかったのは、そうした構成をとった結果として浮かび上がってくるのが、まさに僕が青春時代に読んでいた集英社的な少女漫画の魅力だからです。

 本作のヒロインくるみは、最初にも書いたように引き籠もりとして描かれるなど少しトリッキーな配置に置かれています。しかし、物語が進む中で、影を背負っているのはくるみではなくハルのほうであり、くるみは純粋さを体現したヒロインとして再浮上してくるのです。

 ああ、これだよ、僕が見たかったのはこういう「りぼん」的なヒロインなんだよ!

「天ないの翠ちゃんが大好きなんだよ、悪いか!!」

と思わず叫びそうになるくらい、興奮ですよ。

天使なんかじゃない 完全版 1 (愛蔵版コミックス)

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 本作の場合にはその上でもう一つ仕掛けがあるので、それも併せて60分の中でこれでもかと感情を揺るがしてくれます。最小限のパーツを最小限の人員で描きつつ、巧みに構成をくみ上げることで最大限の効果をあげる。まさに、少女漫画のアニメ映画化をする上でお手本とすべき作品だと思います。

 

 といった感じで、劇場アニメ「ハル」をおすすめする記事をかいてきました。10年前に比べて映画館に行く機会がめっきり減ってしまったのですが、学生の頃はミニシアター系の邦画なんかを中心によく映画をみにいってました。その頃に見ていた実写の邦画映画に感じてたのと似たような感覚が、個人的にはこの「ハル」からは感じられるのですよ。まさしく「これだよ、こういうのでいいんだよ」です。

 劇場版はまだもう少し公開しているようですし、是非是非映画館に足を運んでみてください。また、綾瀬羽美によるコミック版(残念ながら咲坂伊緖でなくですが)、脚本を担当した木皿泉による小説版も発売されていますし、一人でも多くの人に体験してもらいたい。

ハル (マーガレットコミックス)

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ハル (WIT NOVEL)

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花とアリス [Blu-ray]

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さきすぺ6千里山&夏コミ参加情報 ー『咲-Saki-最強考察2』に寄稿しましたー

 6月30日に千里中央にて、咲の同人誌即売会さきすぺ6」が開催されます。今回は場所的には千里山女子、姫松、三箇牧でおなじみの大阪開催であり、特に枕神の聖地大阪モノレールでの開催で、僕のホームグラウンドでの開催となっております。

 

*モノレール万博公園駅付近の枕神の聖地(実際にはベンチはない)。ちな、うちからバイクで5分くらい

 

 そんなさきすぺ6にて、サークル近代麻雀漫画生活」(千-20)によって頒布される同人誌『咲-Saki-最強考察2』に原稿を寄稿させていただきました。

 

近代麻雀漫画生活:6/30(日)咲-Saki-オンリーイベント「さきすぺ6」にサークル参加します 

 

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 ちゃちゃのん、小走先輩、怜、すばらのかわいらしい表紙が目印になっております。Bブロック(本編)の二回戦の闘牌内容の分析を中心に、麻雀漫画ブログ回の巨匠いのけんさんの考察が冴え渡る内容になってます。僕も今から読むのが楽しみ。

 

 で、僕が寄稿したコラムは冬コミでコピー本として出した咲SSを中心とした咲二次創作(咲ワールド)の内容を増強したものになっております。今年になって新たに出てきた傑作SSの紹介や、こないだの記事で比較したガルパンとの違いなんかも少し書いています。自分でいうのもなんですが、かなり面白い内容になっていると思いますのでよろしくお願いします。

 

 また、今回の本は夏コミでも頒布されるとのことですので、さきすぺが無理だというかたはコミケでお求めください。

 

 さて、今回は立地的に「さきすぺ千里山編」といった感じなので、併せて聖地巡礼もしてみてはいかがでしょうか。学校周辺(阪急千里山関大前)、OPの交差点(怜たちの下校路、北大阪急行服部緑地)、枕神の場所(モノレール万博公園前)などの聖地は会場からアクセスするのも簡単です。

OPの噴水広場(阪急千里山

OPの陸橋のところ(北大阪急行服部緑地

 

 個人的にはモノレールにのって、豊川駅で降りて徒歩3分くらいの場所にあるスーパー銭湯彩都天然温泉すみれの湯 」がおすすめです。僕も近所にあるのでよくいくのですが、露天風呂がとても気持ちよく、「あったか〜い」気持ちになれるので、即売会での疲れも一発でシャープシュート間違いなしです^^

 

最近の咲SSの流行 ー怜竜の関係性の逆転傾向からみる咲SS回の新たなサイクル-

 アニメ阿知賀編16話の配信も終わり、現在の公式コンテンツが本編の連載と咲日和のみになってしまいましたが、咲ファンのみなさまはいかがおすごしでしょうか? 個人的には本編のガイトさん無双にドキドキが止まらない状態が続いております。いやあ、全国編での日笠の演技が楽しみですね(ニッコリ

咲-Saki- 阿知賀編 episode of side-A 10 スペシャルエピソード#16 [Blu-ray]

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咲-Saki-(11) (ヤングガンガンコミックス)

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 さて、そんな公式からのコンテンツ供給が過小状態な今こそ、咲SSを読むべきですよ。今年に入り徐々に勢いを失っている感がありましたが、最近また色々と傑作・怪作が上がってきており、今後の巻き返しが期待できそうな感じになっております。

 

 例えば、近作では以下の作品がおすすめです。

 

おかしくねーしSSまとめ : 霞「京豚は朝~夕までの間に打ち砕かれ顧みる者もなく永遠に滅びる」

 咲SSが誇る名作シリーズ「カンちゃんシリーズ」を彷彿とさせる雀士掲示板物。霞さんがクソコテに落ちていく様子と、その原因となったはっちゃんのやるせなさとフォローはたまりません。咲さんのサッカーホモネタや、怜や照などのキャラ付けもカンちゃんシリーズを彷彿とさせるところもあり、新入りさんから古参の方まで、あらゆる咲SSファンに是非とも読んでもらいたい傑作です。

 

おかしくねーしSSまとめ : 穏乃「宮永さんの処女膜を破っちゃった……」

 タイトルから既にあふれんばかりに漂う狂気。本文だとこの狂気が加速し、それでいて物語の展開は破綻せず進められ、最後に超弩級のオチが待っている。このコントロールされた狂気こそ、咲SSの世界を代表する一つの系譜で有り、こういう怪作がよめるからこそ咲SSを読むのはやめられないのです。

 

おかしくねーしSSまとめ : 末原「今からわたしの本気を見せてきますよ」漫「先輩……」 

 今年に入ってからの咲SSに勢いが感じられないのは、「大将戦シリーズ」や「チームiPS」、「はまっちゃったSS」のような名物シリーズが減ったことが要因の一つでしょう。もちろん、スタジオアラタシリーズミニ雀士シリーズのような名シリーズもありましたが。

 そんな中、咲SS回における最古参シリーズの一つである末原改造シリーズの久しぶりの新作がスマッシュヒットでした。巨人の星というべったべたなネタを使いつつ、改造シリーズの魅力である理不尽さと滑稽さを絶妙のバランスで保ちながら、小気味よいテンポで進むSS。臨海の対象に風間八宏を採用するセンスも個人的に大好きです。歴史を感じるテンプレの強さに乾杯したい快作です。

 

おかしくねーしSSまとめ : 穏乃「へー、奈良に新設校が出来たんだ」 

 最近のif物で一番印象に残ってるのがこの新設校シリーズ。一年生組に焦点を当てて、ドリームチームっぽい物を作りつつ、高一最強(笑)の泉をうまく生かした作りになっている点がポイント高いです。ここら辺は阿知賀編が完結して、淡や穏乃の能力が明らかになったからこそ描ける部分も増えていて、今後の伸びしろという意味でも期待がかかります。なお、シリーズ最新作における小走先輩の大活躍にも注目です^^

 

美子「仁美ちゃんには笑っててほしいんよ」:えすえすMode 

 個人的な好みがだいぶ入ってますが、結構シリアスな内容の関係性補完SS多い新道寺SSにおいて、珍しい美子と仁美(羊先輩)に焦点が当たったSS。姫すばSSの背徳感にもたまらんものがあるんですが、哩姫同様の古なじみの二人の関係性を甘酸っぱく描いた本作はたまりません。

 

百合チャンネル 一「百合接客選手権!」 

 少し古いですが、単発の傑作といえば本作が外せません。部長を初めとしたたらし系キャラクターのホスト的接客競争SSに心の中の乙女成分がキュン死することまったなし。後、このSSは運営側で雇われた一ちゃんが徐々に壊れていくのも見所です。

 

咲「え? どの学年が一番強いかって?」前編:えすえすMode : 

 まあ、今年の咲SSを語る上で欠かせないのがこの学年対抗シリーズですよね。もう詳しく書くよりも読んで欲しい。全部読むとかなり時間を持って行かれますが、全てのキャラの魅力を出し切った、まさに劇場版咲とでもいうべきクオリティー。公式コンテンツが足りないならSSの傑作を読めばいいじゃないというのは、この作品にこそふさわしい台詞でしょう。

 

菫「銀の竜の背に乗って」 | ログ速 : 

 昨年末から連載されていた傑作シリーズ。このSSの珍しい所は、完全にファンタジーの世界観で展開する部分で、本編のキャラをぶれずに描きながら、一個の独立したファンタジーとしてもしっかり成立している部分にあります。いうなれば「咲オルタネイティブ」であり、しっかりと風呂敷をたたみきって完結させた技量に拍手を送りたいと思います。

 

 てな感じで、最後には今年初頭のSSも混じりましたが、最近も傑作SSが多く上がっています。他にも「塞「今年のインハイは麻雀じゃないらしい」胡桃「へ?」:えすえすMode」とか、「おかしくねーしSSまとめ : 木村日菜(晩成高校)「咲×日×和、かあ…」 」とかもっと色々紹介したいわけですが、長くなりすぎるのでこのくらいにして、それとは別に最近の咲SSの流れから感じていることが一つあるのでそちらを取り上げてみたいかなと思います。

 

 というのがですが、最近の咲SSにおいては、怜竜の関係性が少しずつ変化してるなあというものです。咲SSにおける怜竜といえば、初期の屑怜にしても、中期のカンちゃんシリーズやチームiPSにしても、基本的には竜華が怜にメロメロで、怜がいかに屑だろうが、怜が照やそのほかの女の子にうつつを抜かそうが、基本的には竜華は怜を待っている、そこから発展して、竜華はNTR属性という風潮ができあがっていたと思います。

 

 ・えすえす : 怜「竜華、ちょっとお金貸してくれへん?」

 ・おかしくねーしSSまとめ : 照「お前初めてか全国は?力抜けよ」

 ・おかしくねーしSSまとめ : 竜華の精子A「もう少しで怜の卵子や!」

 ・怜「告白してもうた…」咲・久・穏乃「は?」 : ちょーおもしろい咲SSまとめちゃうよー 

 

 もちろん、竜華が他の女の子とくっつくSSがなかったわけではなく、本編の描写的にお気に入りだったクロチャー(おもち的利害の一致)や、大将戦で同卓することになる淡とくっつくSSも少しではあるものの見られていました。

 

 ・おかしくねーしSSまとめ : 穏乃「大将戦の4人でお泊まり会?」 

 

 それが最近になると、むしろ竜華が浮気する、もしくは怜が竜華をNTRれる描写のSSが少しずつですが増えてきています。例えば、以下のSS。

 

 ・おかしくねーしSSまとめ : 怜「やっぱり竜華の太ももは最高やな」竜華「冗談はよしてぇな」 

 ・ おかしくねーしSSまとめ : 怜「ワ○ミに就職することになったでー」 

 

 特に二つめのSSに顕著ですが、竜華が怜を背負いきれなくなった結果として、浮気に走るという流れになっています。これは過去にはいくら怜が屑でも、竜華の甲斐性がたりなかったり、iPS棒(スティック)が小さかったり早かったりした結果、怜が浮気する、もしくは誰かにNTRれる展開がほとんどだったのとは非常に対照的です。

 

 つまり、この二人の共依存の関係が最初期は竜華の方が精神的に依存している感じに取られる傾向が強かったのに対して、最近では怜の依存度も高く見られるようになってきた結果、竜華の優しさの部分(かつては弱さや情けなさに取られることが多かった)を浮気やNTRにつなげる作品が少しずつ増えてきているではないかと推測されるのです。たぶん、アニメ15話、16話部分で怜竜カップリングの(哩姫と並ぶ)公式補強が影響していて、公式が揺るがないならむしろ弱い方の竜華を揺れさせてしまえばいいんじゃないかという傾向があるのかもしれません。

 

 こう考えると、アコチャーが援交キャラからチームiPSご満悦担当に華麗にキャラチェンジしたように、怜竜の関係性も咲SSが流星しだしてから大きく動き出している感があります。怜竜は咲SS回においては最も人気のカップリングですし、それが単に個人の好みというよりも全体の風潮変化の中で描き方が変わってきているというのは、咲SS回がきちんと二次創作として生きていることを象徴しているといえないでしょうか。

 

 今回は咲SS回の最近の傑作を紹介しつつ、そこに怜竜の関係性の変化を読みとりつつ、咲SS回が二次創作として正しいサイクルをたどっていると論じてきました。阿知賀編の終わりが見えてきた今年の最初の四半期よりも、公式における終わりを迎えた今の四半期の方がむしろSSとしては勢いを取り戻しているというのも非常に興味深い部分ですし、咲の底力を感じる現象でもあります。

 

 個人的には本編での描写が増えても、いまいち人気のない臨海SSが今後増えることに期待していますが(むしろ成香ちゃんSSの方が多い)、新たなサイクルに入ったことを感じさせる咲SS回が今後どのような方向に進化していくのかまだまだ目が離せません。

 

参考:二次創作の最前線はここにあるー咲SSのすすめー - レスター伯の限界 

咲本編と阿知賀編における主人公の立ち位置の違い―またはストパンとガルパンの違い―

 阿知賀編の一挙放送をみてたら二回もツイート規制されたので、咲本編と阿知賀編の違いについて最近考えてたことを簡単にまとめてみます。

 

咲ーSakiー 1 (ヤングガンガンコミックス)

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 咲本編と阿知賀編の違いは、まず大前提として本編の掲載誌がヤングガンガンで青年向け、阿知賀編の掲載誌がガンガン本誌で少年向けってのがあって、だから、阿知賀編の方がより少年漫画向けの必殺技の応酬になりやすいのに対して、本編の方が若干渋めの心理描写が増えるのはあります。読者層を考えると、麻雀知ってる数がガンガン本誌の方が少なくて、だから派手にならざるを得ないのは仕方ないでしょう。(近麻の漫画にくらべればどちらもほとんど麻雀知らない読者まで想定して描いているのでしょうが)。

*ガンガン系列はここらへんの区別がかなり曖昧(迷走)になってるので掲載誌判断は難しいところですが、阿知賀編の方がより対象年齢層が低めに設定されているのは間違いないでしょう。

 

 それはあくまで大前提なので、今回さわりだけでも描きたいのは、本編の主人公宮永咲(以下咲さん)と阿知賀編の主人公高鴨穏乃(以下穏乃)では、そもそも物語力学上の立ち位置が全く違うということです。特に重要なのが家族と友達の意味であり、その視点から少し考察をしてみたいと思います。

 

 咲さんは基本的には孤独な主人公です。家族の描写はお父さんがちょっとあるだけで、基本的にお姉ちゃんしかないし、そのお姉ちゃんは乗り越えるべき対象として描かれます。本編が始まる前から圧倒的な麻雀の才能をもっているけど、その才能を使うことを疑問に感じてる。和やタコス、部長やまこという最高の仲間と巡り会うことで麻雀を打つ意味を見いだそうとしますが、全国に来てもまた迷ってるのは全国二回戦でプラマイゼロやってることからもみてとれます。

 

 一方で、穏乃は常に友達や家族に恵まれた主人公です。中学時代に孤独になって山籠もりしてますが、その間にも憧や玄との絆が途切れることはなかったし、何より麻雀でインハイにいく目的もかつての親友和と再会して遊ぶためです。

 

 もちろん咲さんにも京ちゃんという古なじみがいて、咲さんを麻雀部に導きますが、京ちゃんは男なので(直接的には)一緒に戦うことは出来ないんですよね。阿知賀編四話にそれを象徴するシーンがあって、コインランドリーで京ちゃんと会話したときに、「私はそんなことのために(遊ぶために)ここにきてるんじゃないから」という台詞がそれです。また、この違いはAブロック準決勝でも同様に表現されていて、「お姉ちゃんに麻雀で再会すること」を目的とする咲さんは会場に入れないのに対して、穏乃は偶然にも和と再会して決勝で再び遊ぶことを約束します。

 

咲?Saki? 阿知賀編 episode of side?A 第二局 [DVD]

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 この違いは非常に大きいと思います。穏乃は準決勝を前にして和と再会することで、元々持っていた仲間との絆と戦う目的を再確認し、それを強さに変える。さらに併せて、孤独だった時代に身につけた山の神としての能力を発動させることで、咲・穏乃両方にとって最大のライバルになるであろう淡を準決勝の時点で打ち倒します。一方で、咲さんは自らを孤独に追い込んだ麻雀の能力こそ健在なものの、卓の上でも卓の外でも照と再会できないまま決勝を迎えることが現時点では予想され、穏乃と比べた時には片手落ちの状態で決勝大将戦に臨むことになりそうです。

 

 咲という物語は、天才の孤独をテーマにした本編に、(千里山・新道寺を含めて)絆の物語として描かれる阿知賀編の二つの異なる力学がぶつかり合うことでその面白みを一気に加速させてきたわけです。その視点に立った上でここまでの経過をみれば、有効な積み重ねが多い穏乃の方が現時点では物語の力学上の強みを持っているといわざるをえないでしょう。もちろん、本編はまだ準決勝先鋒戦の途中なので、過去の回想を含めて咲さんにも上積みがあるでしょうし、これからが本当の見せ場をむかえるわけですが...

 

 といった感じで、咲は重層的な物語として今後さらにすばらな物語になることが確定的に明らかな訳ですが、同時に、この本編と阿知賀編における二つのテンプレは、女の子主人公のバトル系物語(燃えの文法で萌えを描く物語)を考える上で非常に有効なフレームワークだといえるでしょう。咲はキャラクターが優先されている面は否定できませんが、同時に物語の構造自体もシンプルながら魅力的かつ剛性が高くて、同系統の物語を考える上で応用が利く物だと思います。

 

 そこで、比較材料として語られることの多い、『ストライクウィッチーズ』と『ガールズ&パンツァー』と咲を比較しながら、最近発展のめざましい「燃えの文法で萌えを描く女の子主人公のバトル系物語」について以下では少し考察してみます。

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 まず、わかりやすいのは『ガルパン』。『ガルパン』の主人公の西住みほ(以下西住殿)は、誰がみても分かるように咲さん直系の主人公です。戦車道の家元の次女として才能をもって育てられるも、西住流の戦車道には疑問を抱いており戦車道からは距離を置いたところから物語がはじまります。一方でお姉ちゃんのまほは西住流の戦車道を体現する、まさしく高校生戦車道の頂点にたつ象徴であり、この点は照とだだ被りしています。

 

 そして、ガルパンという物語は新たな仲間を得た西住殿が新たに見つけた自分の戦車道で自分のルーツたる戦車道を体現するまほに挑み、それを乗り越えることで自分を確立するとともに、まほというお姉ちゃんと戦車道を通して再び邂逅することがテーマの核心になっています。まさしく、決勝戦でまほを乗り越えた西住殿はインハイ決勝後の咲さんの理想的な姿といえるでしょう。

*西住姉妹についてはコミカライズの『リトルアーミー』を読むとより理解が深まります

ガールズ&パンツァー リトルアーミー 1 (アライブコミックス)

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 後発のガルパンが咲本編の一歩先を行ってるなと感じるのは、孤独だった西住殿を受け入れる友人の描写の部分です。咲の場合には、和が主にその役割を果たすわけですが、「一度ライバルとして立ちふさがる→戦った後に邂逅」というステップを踏むわけですが、ガルパンの場合、友人と戦車道の二つの面を沙織(+華)と秋山殿(+まこ)に分割することで、咲以上に友人が主人公を受け入れる描写をスムーズに展開しています(ガルパンの場合はこの種の圧縮が非常にうまい)。ここらへんは女の子メインの物語として描くことの利点を活かしており、善し悪しや好みは別にして、比較すると咲はまだまだ従来の少年漫画の文法が色濃く残ってるといえるでしょう。

 

*ガルパンの構造と咲との比較については以下のUSTでもガッツリ話しているので、併せて参照いただけるとよりわかりやすいかと思います。

 http://www.ustream.tv/recorded/31819455

 

 一方で、ストパンの主人公の宮藤芳佳(以下芳佳)は、どちらかというと穏乃系の主人公です。芳佳を考える時に重要なのは、もっさんという上司(同僚)に加えて、死んだ(とされている)お父さんが常に芳佳を導くメンターとして機能している点です。そうした安定したメンターの存在が、仲間を信じる、誰かを助けるという芳佳の強みに繋がっていくあたりは、穏乃に非常に近い物を感じます。

 

 また、目的意識がはっきりしていることも、穏乃と芳佳は似ています。芳佳といえば「歩く命令違反・規則違反」で有名ですが、誰かを助けたい、仲間を助けたいという点では一貫しています。咲さんや西住殿がある意味で「自分を探す」系統の主人公だとすれば、穏乃や芳佳は表面上の立ち振る舞いことは幼い部分が目立つ物の、前二社に比べると精神的に成熟した面が強いといえるでしょう。

 

 芳佳と穏乃を比べると「戦うこと」の意義を見失わない点で若干穏乃の方が強くて、芳佳は時にぶれることもあります。ただ、置かれた環境としては「疑似戦争」である麻雀や戦車道とは違って、芳佳はリアルに「戦争」をしているので四人の中で最も過酷な決断を迫られているにも関わらずぶれないので、最も芯の強い主人公だといえるかもしれません。特に劇場版を見た後だと、その思いが強くなります。

ストライクウィッチーズ 劇場版 Blu-ray限定版

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 現時点ではこれ以上は考えがまとまってない部分があるので、いったんまとめておきます。咲・ストパン・ガルパンといった「燃えの文法で萌えをかく女の子主人公のバトル系の物語」のテンプレートを考えたとき、大枠では、

 

 ①孤独な主人公が戦う意義と絆を見いだしていく物語(咲本編・ガルパン)

 ②絆によって守られた主人公が目的を果たすために戦いに挑む物語(咲阿知賀編・ストパン

 

 に分類できるでしょう。もちろん、この分類が全てではないですし、最新系であるガルパンの場合にはスタートは①だけど、早い段階で②の側面を強化することで(あんこうチームという最高の仲間の獲得と廃校阻止という目的)一クールアニメとして巧みにまとめられており、その点にハイブリッドな進化が感じられます。

 

 その上で改めて咲という物語を眺めると、①である本編と②である阿知賀編という二つの視点から描くことで、よりスケールの大きな物語として展開しており、すでに単体としては完結を迎えた②阿知賀編では、絆の物語としては現時点での一つの到達点を示すことに成功したといえるでしょう。一方で、本編に関してはガルパンのように絆も目的もまだ不透明な部分が大きく不安定です。

 

 この点は後発でありながら先に完結したガルパンと比較すると明らかで、咲さんのお姉ちゃんと再会するという目的と全国優勝という部長の目的が今後どのように交わっていくのか、そして和や優希(タコス)との間にあんこうチームのような絆を築き上げることができるのか(長野決勝でタコスが落ち込んだ時に、控え室で慰めるシーンから咲と和が排除されてるのが象徴的)が注目のポイントとなります。

 

 *逆に言えばその絆の不安定な点が咲本編の持つ魅力に繋がっている訳で、絆として不安定な故に、他の盤石カップリング(阿知賀編の怜竜や哩姫など)とは違った意味で咲和が魅力的な百合関係に繋がってるといえるわけですが。絆という意味では空気でお互いを理解し合える和タコスの方が(iPS細胞の下りも加えて)明らかに強いですし。

 一方でガルパンの場合にはさおりんの女子力によってあっさりと絆を手に入れることで、百合的(恋愛的)な魅力は咲よりは弱いと言わざるをえません。個人的にはそれがガルパンSSが咲SSほど盛り上がらなくて、逆にガルパンの世界を体験するという意味で聖地巡礼系の活動や自衛隊DVDに秋山殿がナレーションというリアル系統の二次創作が発展しているといえるのではないでしょうか。

 咲とガルパンの二次創作の違いについては今後少し考えてみたいと思っているテーマです。

 

 そして繰り返しになるわけですが、今後②の阿知賀編と交差したときに、どれくらいスケールの大きな物語へと成長するのかが見所になるわけです。咲と穏乃の対決はまさしくイデオロギーの対決であり、テンプレートの対決であり、そしてこの系統の物語の力学を大きく左右する対決になるはずです。

 

 りつべの執筆ペースを考えるとその決着がつくのは何年後かはわかりませんが、咲という物語がきっとすばらな物になることは間違いないでしょう。咲本編の行く末と、他のアニメや二次創作を含めて作劇的な影響力が今後どのような作品に結実するのか、今後も見守っていきたいと思います。

 

 とりあえずは、来週末に配信が始まるアニメ阿知賀編の最終話を座して待ちましょう。

 

*追記:「継承」というテーマについて

 この記事自体が一時間で思いつくままに書いたので、もれが多いのは仕方ないのですが、ブコメでハバネロ君が指摘してくれているように、「継承」というテーマもこの類型を考える上では重要です。

 

 わかりやすいのは②の方で、阿知賀編ではレジェンド赤土晴絵から穏乃や灼ら教え子に「インターハイ準決勝」という目的を、ストパンではもっさんから芳佳(もっと言えば『零』の北郷さんからもっさん)に扶桑の魔女の誇りが、それぞれ継承されることが物語に一本の芯を与える構成になっています。これも、本文中で述べたように主人公にとってメンターの存在が大きくクローズアップされるからこその特徴になります。

 

 一方で①の場合には、本来ならメンターになるべき姉達から「継承」するのではなく、姉とは別の道を見つけるのがテーマになります。つまり直接導くのではなく、乗り越えるべき壁となることを選択しており、本質的には姉を超える孤独な天才の物語としてライバルになるわけです。

 

 後更に追記しておくと、「穏乃は隠れぼっち」という指摘もブコメでありましたが、それには同意する部分もあって、直接的には中学時代に山に籠もってたというのもありますが、穏乃は孤独にも耐えられる強さをもっています。咲さんはその能力故に人を引き離してしまい孤独になってしまった部分があるのに対して、穏乃は周りの状況が穏乃をぼっちにしてしまう一方で、ぼっちでも耐えられる強さを持っているからこそ穏乃のまわりには憧を初めとした仲間達が集ってくるのでしょう。

 

 ただ、レジェンドを引き抜こうとするトシに対して「二度目はキツいかなって...」と独白するシーンもありましたし、芳佳と比べると周りを照らす「太陽」(イメージ的には『空の軌跡』のエステルと近い)とはまた微妙に違っていて、むしろ仲間達との絆や目的を燃料にして自らの中で燃やすことで周りを引っ張るエネルギーを生み出す「エンジン」的な側面が強いかなと思っています。

 

4/22(月)ガルパンUstのお知らせ

 4月22日(来週の月曜日)の22時頃からLDさん(@LDmanken)さんとガールズ&パンツァーをテーマにUstやる予定です。

 

 

 URLはツイートにあるLDさんのUSTで、時間は1-2時間くらいです。

 

 トークの内容としてはLDさんからは戦車道という世界観がいかに巧みだったかという話が中心になるかなと思いますが、僕は主人公としての西住殿の立ち位置の話、そこから敷衍させてガルパンとか咲とか女の子主人公(広義のバトル系)物語の話ができたらなあと思ってます。

 

 ちなみにコミカライズの『リトルアーミー』(アライブ版)の話もしたいなと思っています。フラッパー版が秋山殿視点からのアニメ版補完(アンツィオ戦が描かれてたり)なのに対して、リトルアーミーは小学生時代の過去エピソードで、西住姉妹の関係性と西住流について原作より踏み込んで描かれています。読んだ上で11話・12話を見直すと更に来る部分があるので、まだよんでないという方はkindle版もあるので是非是非。

 

ガールズ&パンツァー リトルアーミー 1 (コミックアライブ)

ガールズ&パンツァー リトルアーミー 1 (コミックアライブ)

ガールズ&パンツァー 1 (フラッパーコミックス)

ガールズ&パンツァー 1 (フラッパーコミックス)

 

*録画データはこちらのURLから聞けます。

 

 

4/13(土)敷居亭Ustream―小説家になろう&2chSS―

 今週の土曜日(13日)の20時頃から敷居亭のメンツで「小説家になろう」と「2chSS(主に咲SS)」のUstをやります。

 

日時:4月13日20時頃から(予定)

放送URL:http://www.ustream.tv/channel/smiley

参加者:敷居(@sikii_j)、さっすま(@sad_smiley)、レスター伯

【告知リベンジ】4/13(土)小説家になろう&2chSS話ustream - 3LDS -Love,Like,Life!! Diary@SmiLey!- : 

 

 先週は機材の不調なんかもあってなかったことになったわけですが、今回はホストのさっすまがテストもして、さらに僕がバックアップの環境(http://www.ustream.tv/channel/leicesterp)を整えているので、まず大丈夫のはず。

 

 話題はなろうだと、大魔王がたおせない」と「レジェンド・オブ・イシュリーン」、SSだと「学年対抗シリーズ」「ノドカの牌シリーズ」(リンクはこちらのハバネロ君のまとめ参照)あたりが中心になると思います。基本的には作品語りが中心の予定なので、興味がある人は是非聞きにきてください。どの作品もすごいおすすめ。

 

 今回うまくいったら、今後は定期的に同じような作品語りをしたいなあといって思っております。

 

 

 

かけがえのない作家と再会し、かけがえない作家と別れた春 ―『星界の戦旗Ⅴ』『苺ましまろ7』の発売と殊能先生の訃報によせて―

 ちょっと更新をさぼっていると新年度に突入してしまいました(挨拶)。

 

 ちまちまと消化していたので、小ネタ的な更新はそれなりに出来そうでも年度末の忙しさもあり、なかなかモチベーションが湧かず放置していたのですが、三月末に「まさか新刊が出るとは...」というマイ・フェイバリットな作品が立て続けに出版されたので三月のオススメ作品として紹介します。

 

①『星界の戦旗Ⅴ―宿命の調べ』

星界の戦旗V: 宿命の調べ (ハヤカワ文庫JA)

星界の戦旗V: 宿命の調べ (ハヤカワ文庫JA)

 本当に「まさか新作が出るとは...」「本屋で実際に手にとるまで信じねえ...」と思ってた星界シリーズの新刊が遂に本当に発売されました。長編としては8年強ぶり(気分的には10年ぶり)、最新の短編集である断章2巻からも6年ぶりという新作で(短編自体はDVD-BOXの付録としてちょくちょく発表されていましたが)、10年ぶりに出た同窓会で全く期待してなかった初恋の人と再会したような気分ですよ。

 

 星界シリーズと言えばアーヴ語」(森岡先生が創作したオリジナルの言語)や「平面宇宙航法」に代表される練り込まれた設定が魅力ですが、その反面久しぶりに読むには(確か最後に読み返したのは5年くらい前)なかなか大変だろうなあと思っていたのですが、ほぼ全ての漢字に降られたアーヴ語のルビを読んでいると高校生時代に星界の紋章に出会った頃の感覚がよみがえってきてすごくジーンときました。最近、小説家になろうでイチオシの戦記物である『レジェンド・オブ・イシュリーン』を読んでて、「銀英伝とか星界とか思い出すなあ」とか思ってたんですが、改めて本家の練り込まれた歴史・設定の深みを体感する事が出来て本当に大満足です。

星界の紋章読本

星界の紋章読本

星界の紋章ハンドブック (ハヤカワ文庫JA)

星界の紋章ハンドブック (ハヤカワ文庫JA)

 

*イシュリーンに関しては、今週末に行う予定の「なろう・2chSS」に関するUstで話題になると思うので、興味がある人はぜひ。詳しくはまたtwitterなどでつぶやきます。

【告知】4/6(土)小説家になろう&2chSS話ustream - 3LDS -Love,Like,Life!! 

 

 また、設定と並んで星界の魅力となるのはやはりラフィールをはじめとするキャラクターたち。5巻では前巻の最後で突然の危機にさらされた(本当にあのラストからよく10年待てたなとw)アーヴによる人類帝国の撤退戦が中心になるのですが、その中でアーヴの歴史・記憶・心性に関する踏み込んだ描写がなされています。皇帝世代(ラフィールの祖母)アーヴの誇りと歴史を受け継ぐラフィールと、そうした途の習慣に戸惑いながらも対応していくジント。根本こそは変わらないものの、これまで以上に困難な途に踏み出そうとする2人の関係を今後も見守っていきたいという気持ちにあらためてなります。

 

 もちろん、ラフィールとジント以外のキャラクターも懐かしく、サムソンさんやソバージュら古馴染みの連中は安定感があるし、ラフィールとはまた違った意味で試練を与えられる弟ドゥヒールにほのかな成長を感じたりと、最後に出てきておいしいところを持っている「スポールはやはりスポール」としか言いようがないし、10年経っても生き生きとしたキャラクターには相変わらず魅了されます。個人的にはエクリュアの出番が少なくて非常に寂しかった訳ですが、一言「殿下(フィア)」と発した声が脳内再生されて、もうそれだけでガッツポです。ラフィールの「馬鹿(オーニュ)」とあわせて、ブームになる前から確かに存在したツンデレとクーデレの極みはやはりたまりません。

 

 たとえ、10年という月日があったとしても 、忘れられない、いつまでも自分の中で大事な位置を占める物語というのもがあるのだという事を思い知らされました。あとがきでは次はもう少し早く続きをお届けしたいと書かれていましたが、10年でも20年でも待つので、ジントとラフィールの次なるステージを楽しみに待ちたいと思います。

 

②『苺ましまろ7』

 

苺ましまろ 7 (電撃コミックス)

苺ましまろ 7 (電撃コミックス)

  星界については1月末の段階で新刊発売という情報が流れてきていたので心の準備ができていたのに対して、ましまろに関しては発売日に唐突に「おい、新刊出たぞ!」と知りました。まあ、例えるなら、寝ている所に窓から美羽に突如奇襲をかけられたみたいなもんなので、実にましまろらしい4年ぶりの新刊でした。

 

 ここ最近、『日常』や『キルミーベイベー』など分類するならシュール系のコメディ漫画(アニメ)が(ボクの周りで)ブームになり、今年の冬クールにも『あいまいみー』なる超弩級のぶっ飛んだ作品が(ボクの周りで)爆発的な人気(DVD初版が700枚くらいらしいですが、そのうち3枚をいつもの敷居亭メンツが買っているという)を誇っていますが、個人的にはこの系譜の源流にあって最も好みなのが『苺ましまろなのです。

あいまいみー 【DVD】

あいまいみー 【DVD】

 

 そんなわけで、FXで有り金溶かしてでも読みたい新刊をゲットしたわけですが、こちらも相変わらず人のツボをどストレートについてくる面白さでした。本当に美羽は馬鹿でそれにちゃんと付き合って上げる千佳ちゃんはかわいい。キルミーの教室のように、ましまろの伸ねえ部屋のありそうで絶対にない歪んだユートピア感は本当に愛おしい

 

 7巻を読む限りでは、ネタを産み出してそれを漫画の型に落とし込むのに本当に魂けずってるんだろうなあと感じないでもなかったので、今くらいのペースでもいいので、ばらスィーにはいつまでも連載を続けてほしいですね。

 

殊能将之先生の訃報

殊能将之さんが死去。「ハサミ男」などのミステリー作家。ショックとおくやみの声 :にんじ報告

 この約一週間の間に本当に好きな作品と再会できたのを喜んだ一方で、最後にまさかの別れが待っているとは... 『ハサミ男』などで知られる殊能将之先生が2013年3月30日に無くなられたという訃報が入ってきました。

 

 青春時代に新本格、特に講談社のミステリで育った身としては、殊能先生は個人的講談社ミステリの後半を代表する特別な作家の一人で、清涼院流水後にバカミスと本格の中間を絶妙のバランスで描いてくれた愛すべき作家でした。個人的には特に、『黒い仏』における超能力バトルが本当に大好きです。麻耶雄高の系譜を感じさせる、ミステリに対するシニカルだけど根底に確かな愛を感じる作品群は今でも宝物です。 

黒い仏 (講談社文庫)

黒い仏 (講談社文庫)

 

 その一方で、遅筆・寡作が多いミステリ作家の例に漏れず、長編としては2004年のキマイラの新しい城を最後に殊能先生の新作は出ていません(ちょうど星界の戦旗Ⅳと同じくらいの時期です)。よくミステリ好きの友達と「殊能先生が新刊を出さないのは仕方ない。だって本業はワイドショーウォッチャー(日記でよく書いてた)だから(震え声)」みたいな話をしていたのですが、まさかこんな形で永遠に新刊を読めないんだと思い知らされる事になるとは想像だにしませんでした...

 

 実は『星界の戦旗Ⅴ』あとがきで、森岡先生が心臓の病気で入院して、生死の境をさまよったと書いてあったので、命があって、新刊を読めるっていうのがこんなにも幸せなことなのかと思い知らされたばかりだったので、今まで以上にショックな訃報になってしまいました。ご冥福をお祈りします。

 

 

 春は出会いと別れの季節、こんな感じで幸せと悲しみに包まれた2013年の春でした。あ、後、個人的には長い間密かにずっと応援してきた相沢舞さんのファーストアルバム『moi』がすごく良かったので、是非是非聞いてみてください。うますぎWAVEの頃からもい様の歌を聞いてきた身としては、言葉では言い表せないすばらしい出来のアルバムでした。

moi (初回盤)

moi (初回盤)